Future Leaders
栃木県下野市出身。専門学校を卒業後、新卒で大手メーカーの協力店に就職。車の盗難防止システムの取り付け等を行う新規事業を展開するなど、15年間勤務。2020年に独立し、GrandWorksを創業した。
宇都宮市上桑島町。鬼怒川に面しており、果樹園が広がる自然ゆたかな土地で、「カーセキュリティ」の専門家が活躍している。SPS認定のカーセキュリティ専門店「GrandWorks」の代表である生沼氏にお話を伺った。
近年、自動車を取り巻く環境は大きな変化を迎えており、自動車の高級化や電動化が進む一方で、車両盗難や不正アクセスなどの犯罪もますます巧妙化している。警察庁の統計によれば、2023年の自動車盗難件数は前年より増加。最新技術を悪用した犯罪手口が広がる中、カーセキュリティへの関心はさらに高まっている。
生沼代表は、前職でカーセキュリティ事業の立ち上げに携わった。部署の一つとしてスタートしたこの事業では、接客から作業までを一人でこなすことも少なくなかった。しかし、会社の方針により事業撤退が決定。「それなら自分でやろう」と独立の決断も早かった。自ら立ち上げ、責任を持って対応してきた事業を引き継ぐ形での独立だったため、起業に対する大きな不安はなかったという。
生沼代表は高校を卒業後、「自分が好きな車業界に携わりたい」と専門学校への進学を決意。専門的な技術と知識を学んだ後、卒業と同時に大手メーカーの協力店へ入社し、キャリアをスタートさせた。仕事を通じて車への興味や情熱はますます深まり、より高度な技術を習得していったという。そんな若手社員だった当時の生沼代表を支えたのが、今は亡き会長の存在だった。
「おじいちゃんと孫のような年齢差でしたが、短い時間でもお話いただくことは本当に学ぶべきことばかりでした。会長が一般社員と話すことはほとんどありませんでしたが、私に対しては特別可愛がってくれていたように感じています。会長から昼食に誘っていただく際には、持参していた弁当を隠してでもご一緒しました。独立や経営にまつわる話を直接聞けたことは、他の誰にも得られない貴重な経験でした。」
入社当時、生沼代表は独立を意識することは全くなかった。しかし、会長の言葉や振る舞いに触れることで、次第に将来のビジョンが形作られていったという。そして、会長が亡くなったことをきっかけに、独立を真剣に考え始めることとなる。「会長がいなかったら、今の私はなかったかもしれません。今でも、自分の人生観や選択は、会長の影響を受けていると感じます」と、生沼代表は会長への感謝とともに、当時を振り返った。
カーセキュリティから救急車の整備まで幅広く対応するGrandWorks。救急車の整備では、一般車両とは異なる高度な技術と柔軟な対応力が求められる中、生沼代表率いる2名体制で高いクオリティを維持している。法人化や規模拡大の検討については慎重だが、それは「クオリティを守るため」と語る。
「規模が大きくなれば、従業員全員が今までと同じクオリティで対応するのは難しくなります。クオリティに対する妥協は絶対にしたくない。お客さんが求めてくれたことは、所属している誰でもできるような水準を維持し続けたいんです。規模は無理に大きくせず、自分たちができる範囲で、質の高い提供ができればそれで十分です。」
さらに、地域イベントへの協力も積極的だ。最近では、映画「帰ってきたあぶない刑事」の宣伝イベントの一環として、劇中車両と同型の車をMOVIX宇都宮に提供。生沼代表は「趣味の延長ですよ」と言うが、このような地域文化への貢献も忘れない。地域と密接に結びつき、車を通じた幅広い価値提供を続けている。
少数精鋭で事業を続ける姿勢からは、生沼代表の強い責任感が感じられた。その責任感は「自分が本当にやりたいことに向き合う姿勢から生まれる」と生沼代表は言う。
「若い世代の皆さんにも、起業や独立など大きな目標を考える前に、まずは自分が何を目指したいのかをしっかりと見つめてほしいと思います。あれこれ悩むよりも、少しでも『これだ』と思えるものがあれば進む。一方で、何か引っかかるものがあれば無理に進まない。それくらいシンプルな基準でも、自分の進むべき道が見えてくるはずです。」
好きだった「車」を仕事に選んだ生沼代表。その姿勢は、多くの人にとって「好きなことを仕事にする」という理想を体現したものだろう。GrandWorksは、これからも自らのスタイルでクオリティを追求し続けていくに違いない。