マルニ額縁画材店が描く、DX時代の伝統を超えた額縁ビジネス

Future Leaders

 
     
 
木村 知巳

マルニ商事株式会社

代表取締役

 

1996年明治大学理工学部卒。1996年株式会社ソリトンシステムズ入社。1999年マルニ商事株式会社入社。2016年代表取締役就任。2021年10月足利市教育委員就任。

足利市発の最先端的な額縁の販売・製造会社

マルニ商事株式会社は、足利市に自社工場を併設した額縁の販売会社だ。足利店舗、足利工場、渋谷サテライトショールームを持ち、リアルのお客様対応とインターネット通販で販売を行っている。

昨今では1999年の黎明期より行っている額縁のインターネット通販が売り上げの中心となっている。そして工場ではDX化を推進しており、この販売から製造までのシステム化が業界内外からも注目されている先端的な会社だ。同社は額縁のネット販売を25年以上おこなっており、全国に多くのお客様を持っている。そして額縁の在庫をほとんど持たないオンデマンド生産に特化しているところも大きな特徴だ。

「品質にもこだわりがあります。製造のDX化により、製造効率をあげ短納期を実現、徹底した自社生産を守っています。また、額縁の生産から加工、作品のプリント、額装(作品のアッセンブリー)、これらの業務品質向上のために内製化にもこだわり、一気通貫で完結することのできる、まさにトータルアート集団です。」

そう語るのは、マルニ商事株式会社の三代目、木村知巳代表だ。代表入社当初のマルニ商事は、従業員わずか4人の家族経営の額縁店だった。そんな小さな足利市の企業が、今ではITを駆使して事業規模を大きく広げ、注目される存在へと変貌を遂げている。

 

業界初、額縁のシミュレーションシステムを構築

1969年、足利市久松町にて創業したマルニ商事株式会社。当初は商社として、額縁のみならず様々な商品を取り扱う企業だった。当時から新しいもの好きだった創業者は、台湾から商品を輸入し、地元栃木だけでなく1972年の沖縄返還のころから沖縄に店舗を構え販売をおこなうなど、型破りな商売で活躍していたという。そして歴史を重ねるなかで、二代目が経営を引き継ぎ、額縁と画材に特化した販売・製造会社へと転換を図り、現マルニ商事の形に大きく変化した。

木村代表は、大学卒業後の1996年にIT会社に入社。厳しい環境の中でPCスキルに劣る自分を叱咤し続けた先輩に感化され、奮闘の日々を送った。この経験が、後の経営者としての基盤となる。そして1999年、父の会社であるマルニ商事に入社。当時は両親とパート1人の計4人の小さな組織という、当時よくある経営スタイルであった。「小さい頃から父の仕事を継ぎたいと思っていたので、家業を継ぐのは自然なことでした。そして、自分の手で会社を新たな方向に導きたいという思いがありました」と木村代表は語る。その言葉通り入社後、次々と新たな挑戦を続けてく木村代表。『お客様のニーズには“NO”を言わない』を理念に掲げ、多様な要望に応えた結果、お客様の理想のサービスを一社で提供できる今現在の形になったという。

作業風景

マルニ通販サイトの特徴の1つに、額縁シミュレーションシステムがある。「お客様に額縁を販売する中で最も大きな課題は、作品が額縁に入ったイメージを伝えることでした。この仕上がりのイメージをお客様にお伝えすることは非常に難しく時間がかかりました。そこで、作品が額縁にセットされたイメージをインターネット上で、ビジュアル化するために業界初の額縁シミュレーションシステムを開発し、お客様から大きな支持を得ています。」この顧客第一主義が、今でも会社の成長を支える原動力となっている。

そして、コロナ禍によりリアル店舗での購買からオンライン購買へと消費者の流れが急激に変化したことで、ネット通販と自社生産の強みを最大限に活かし、同社は大きく飛躍した。

 

額縁店の新たな形…“ソリューション提供企業”への進化

マルニ額縁店を語るうえで、木村代表が構築した業界初のシステムを外すわけにはいかない。IT技術を積極的に活用し、製造から販売までを一気通貫で管理するDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進。これにより、注文の効率化や顧客対応の精度向上を実現した。『戦略を練り、経営の舵を自分で握ることで会社を大きく飛躍させられる』という木村代表の信念が、現在のマルニ額縁店の基盤となっている。

DXに関して大きく2つの取り組みがある。まず1つ目は、先述の額縁シミュレーターだ。これはお客様が作品の画像をシミュレーターに取り込み、作品サイズを入力するだけで額装のビジュアルが表示され、額縁やその他部材を着せ替えでき、さらにそのままインターネットでカートインして注文が可能になる。そして、この注文の内容を販売から製造までシステムで一貫して管理しているため、注文の詳細が人を介在せずに製造現場に直接が届くようになっている。これにより、オーダーメイド製品でありながら、受注から出荷までわずか2〜3日程度と、業界のなかでは異例のスピードを実現している。

2つ目は、コールセンターの高度なシステム化である。「お客様からの電話番号に基づいて、過去の注文や、電話等のやり取りが瞬時にオペレーターの画面に表示されます。さらに、コールセンターのオペレーターとお客様との会話内容がAIによって要約され、有用であればナレッジとして蓄積し、チーム全体で共有されます」と、代表は胸を張る。驚くべきは、その革新がこれらの事業部門にとどまらないことだ。顧客対応から製造工程、さらには材料管理や人事管理、仕入れに至るまで、すべてのプロセスがITを駆使して効率化されている。そして、額縁に必要な材料を海外から直接調達するルートを開拓し、オリジナル商品を生み出す基盤を作り上げたことで、DX化と合わせ同社の成長を支える大きな要因となっている。「ITを活用することで、私たちは単なる額縁店ではなく、顧客の多様なニーズを実現する“ソリューション提供企業”へと進化しました。これからも挑戦を続けていきます」と語る代表の表情には、確かな自信が伺える。

歴史ある額縁店として、長い年月を経ても変わらないのは、顧客の要望に応えるという姿勢だ。『どうしたらお客様に満足していただけるか』を常に考え行動し続けるその姿勢は、マルニ額縁画材店を今後も成長させる原動力となっていくだろう。

 

“地の利を活かせ”地方企業が輝くためのヒント

かつて売上が1億円にも満たなかったマルニ額縁画材店。その変貌を語る木村知巳代表は、自身が足利市に戻った当時の状況を振り返る。「当時はたった2、3人いれば十分やっていける規模の会社でした。しかしそのなかでも将来に向けてどう会社を守り拡張していくか、常に考えていました。」

そのなかで、木村代表が着目したのは、東京に2時間程度で移動できる故郷・栃木県足利市の地の利だ。それは、東京に比べ土地や物価が安いという点で、地方ならではのコスト競争力がアドバンテージになると強調する。インターネットを使いどこからでも全国に販売ができ、足利工場にて製造をおこなう。このモデルがマルニ商事にとって最大の武器だ。地方から東京に向けた販路の拡大は、インターネットが当たり前に活用される現代ではさらに容易になったと木村代表は言う。さらに、製造業としての視点で木村代表の戦略が伺える。「東京には販売や企画の会社は多いものの、大きな製造拠点はほとんどありません。その点が、東京に近い地方にいる製造業者には大きなチャンスとなります。しっかりとものづくりをおこない、それを東京市場に届けることで、地方の企業でも大きな可能性を掴むことができます。」

木村代表は、地元・栃木県出身の若者たちに向けてこう呼びかける。「家業が困っているなら、それを助けるために戻るという選択肢も持ってほしい。家業が衰退している産業に見える人もいるかもしれません。それこそチャンスだと思います。地方の利点を活かし、自分がやりたいことに挑戦してください。そして、チャンスは自分で作るものです」。そして栃木の地から新しいビジネスモデルを発信して地元を盛り上げましょう!と木村代表は言う。その姿勢は、地方の可能性を信じ、挑戦し続ける者の未来を明るく照らし続けている。