受け継がれゆく社員ファーストの経営

Future Leaders

 
     
 
永井 孝資

株式会社永井園

代表取締役

 

1980年、栃木県生まれ。2005年に家業の株式会社永井園に入社し、2021年に三代目代表取締役に就任。卸業・小売業に加え、新たに製造業と飲食業を展開している。

老舗企業から全国展開へ

お土産の企画開発や製造を担う株式会社永井園は、1958年創業の老舗企業だ。「いちごのピンクカレー」や栃木名産「レモン牛乳」のオリジナルグッズなど、ユニークな商品ラインナップは永井園の大きな特徴である。代表取締役を務める永井代表は三代目にあたり、創業者である祖父が始めたお茶の小売店を、先代である父親が観光土産品の事業へと成長させた。

商品写真

「本当に大変な時期もありましたね。銀行から融資を断られ、倒産寸前まで行ったこともありました。もう当時のことはほとんど覚えていないくらい、父と一緒に二人三脚で目の前のことを必死にやるだけで。それでもなんとか事業を継続できていたなかで、翌年に起こったのが東日本大震災でした。」

次々と訪れる試練の中、この震災が永井園に新たな方向性を示した。震災後、多くの人々が西日本へ移動したことを知り、永井代表はリスクヘッジのため関西への進出を決意。道頓堀での出店視察では、その活気に圧倒され、即座に出店を決めたという。現在、同社の営業所や直営店は、東京・大阪・山梨・横浜など、全国に広がりを見せている。それでも本社を移すつもりはないと永井代表は語る。

「機能的には宇都宮が中心になりつつありますが、本社を日光から動かしたくありません。祖父が始めた場所で、会社としての思い出も多い。これはずっと引き継いでいきたいですね。」

 

コロナ禍での突然の代替わり

永井代表の代表就任が決まったのは突然のことであった。当時、専務取締役として大阪の営業所を軌道に乗せるため、関西へ転勤をしていた永井代表にひとつの知らせが入る。

「父にガンが見つかったという報告でした。しかもすでに末期の状態で、その年を越すのは難しいだろうと。あまりに突然のことで、頭が真っ白になったのを覚えています。会社のこともありますし、何とか理解しようとする一方で、心の中にはショックや動揺が渦巻いていましたね。」

インタビュー風景

そこから急ピッチで代替わり。元々社内マネジメントなどは永井代表も担当していたこともあり、父親は会長として闘病生活を過ごした。永井代表は当時を「自分自身まだまだ未熟な部分もあったんで、たまに厳しい指導もありましたが、結果的に父は3年間会長職に就いてくれました。重荷が取れた状態で、見守ってもらえて本当によかったです。」と振り返る。

土産物を企画販売する観光業のため、コロナウイルスの打撃は大きく、借入金が増えた状態での世代交代。「その点は父も不本意だったと思いますが、マイナスからのスタートはもう前しか見れないので、逆に気合いが入りましたね。」と話す。引き継いだからには潰すわけにいかない、三代目の決心が見えた。

 

従業員の幸せを最優先に

従業員について永井代表は「家族のような存在」だという。それは先代である父親から受け継がれた考え方でもある。「たとえば、理不尽な取引先と付き合い続けることを従業員に強いることはしません。我慢しろと言うのはかんたんですが、もし我慢が必要なら、私はその取引先をやめてもいいと思っています。」と話す。

従業員ファーストの想いは、業界特有の課題への取り組みにも表れている。観光業界では長時間労働や休暇の取得の難しさが当たり前とされてきたが、永井園では従業員の声を大切にし、働きやすい環境づくりを進めてきた。実現するまでに足がかり10年以上の歳月を要したが、その経緯でも少しずつ不満が減り、今では従業員から「当時の苦労があったから、今は幸せだ」と言ってもらえるようになった。

「そういう言葉が一番嬉しいですね。諦めなくて本当によかったと思います。社会や業界の常識に完全に従うのではなく、うちはうちのやり方で進めたい。従業員が幸せで、安心して働ける環境をつくることが、結果的に会社の成長につながると信じています。」

このような環境づくりを通して永井代表が目指すのは、会社の成長だけではなく「従業員一人ひとりが夢を実現できる場」である。「最終的には、みんながそれぞれの夢を叶えられる会社でありたいと思っています。それがたとえこの会社じゃなくてもいい。独立して事業を始めるなど、夢の実現の後押しができたら、それが一番の喜びです。」と力強く語った。

どんな時代でも、切り開くのは自分の力

様々な逆境を乗り越え、業界の課題や時代の流れを言い訳にせず、挑戦を続けてきた永井代表だからこそ、少子化問題や大手企業の倒産など、社会全体に不安が広がるなか、希望を持って行動を続けることの大切さを強調する。

インタビュー風景

「これからの時代、逆境はより多く鮮明に見えるようになってきますが、簡単に絶望してほしくないですね。そこを切り開いていくのは自分の力です。不平不満や批判は必ず生まれる。それでも何事も諦めなければ必ず成功すると信じています。どんな時代でも、どんな困難に直面しても、諦めないでほしい。挑み続ければ必ず道は開けます。諦めずに前を向く力が、未来をつくると信じています。」

その言葉には、自身が乗り越えてきた試練への誇りと、次世代への希望が力強く感じられた。先代が残した価値を受け継ぎながら、永井代表は常に新しい挑戦を続けていく。