常識を覆す『遮熱』で日本の労働環境とエネルギー問題に挑む

Future Leaders

 
     
 
野口修平

日本遮熱株式会社

代表取締役

 

約27年前に米国で遮熱材に衝撃を受け、当時日本に概念のなかった「輻射熱」の理論を何千回もの実験を経て体系化した第一人者。全国で1万人以上に啓蒙し600社超の基盤を構築。過去の特許を捨て省エネ率60%の新工法を開発するなど「挑戦しないことこそが失敗」を信条に工場等の環境改善とエネルギーゼロ社会の実現に挑み続けている。

遮熱との衝撃的な出会いと立ちはだかった「概念ゼロ」の壁

連日の猛暑や異常気象が深刻化する日本。工場や作業現場では、エアコンをフル稼働させても効かず、熱中症の危険と隣り合わせで働く人々が後を絶たない。そんな過酷な環境を根本から変えようとしているのが、日本遮熱株式会社の代表取締役・野口修平氏だ。

野口氏と「遮熱」の出会いは今から約27年前、アメリカでのことだった。 「建物のなかに遮熱材を施工すると、真夏の38度という猛暑のなかでもエアコンがいらない快適な環境ができるんです。それを現地で体感し、『これはすごい!』と衝撃を受けました」

この感動を胸に、日本でも遮熱技術を普及させようと決意した野口氏だったが、大きな壁が立ち塞がる。当時の日本には「輻射熱(ふくしゃねつ)」という概念や学問自体がまったく存在していなかったのだ。

「熱の移動には伝導熱・対流熱・輻射熱の3つがあります。日本では伝導熱を防ぐ『断熱材』や対流熱をコントロールする『エアコン』は普及していましたが、熱移動の大部分を占める『輻射熱』を防ぐ考え方が完全に抜け落ちていました。本場のアメリカへ行っても主流は断熱材メーカーで、専門資料はごく一部。誰も答えを持っていない未知の領域でした」

何千回の実験で体系化した理論と、知られざる「暑さの正体」

「誰も教えてくれないなら、自分でやるしかない」――野口氏は独学で研究を開始。何千回にも及ぶ実験を繰り返し、独自に輻射熱の働きと遮熱のメカニズムを解析・体系化していった。「今、世の中にある遮熱の専門用語や概念の多くは、私たちが一から作ってきたものです」と野口氏は語る。

理論確立後は、自ら車を運転して日本全国を年に2周し、7年間で1万人以上に遮熱の仕組みを説いて回った。その地道な努力が実を結び、現在では全国に600社以上の加盟店ネットワークが構築され、工場や住宅、病院など多岐にわたる現場で導入されている。

野口氏は、多くの人が抱く「気温が高いから暑い」という常識の誤りを指摘する。 「夏の気温38度の下でも、日陰に入ると涼しく感じますよね。実は人間が感じる暑さは『気温(空気の温度)』よりも、太陽や周囲の物質から発せられる『輻射熱(電磁波)』の影響がはるかに大きいのです。分厚い断熱材を入れ、エアコンを効かせても工場の暑さが解決しないのはこのため。輻射熱を跳ね返す『遮熱材』を使うことこそが、唯一の解決策なのです」

過去の栄光を捨て、省エネ率60%の新工法へ

長年の研究を経て、野口氏はさらなるイノベーションを達成した。それが、省エネ率を劇的に向上させる新工法の開発だ。

「これまでの工法でも約30%の省エネ効果がありましたが、新工法では『外からの太陽熱』だけでなく、室内で機械などが発する『内部の熱』も同時にコントロールする考え方に辿り着きました。この内外の熱を同時に処理する技術により、省エネ率は一気に60%へと跳ね上がったのです」

驚くべきは、この技術を普及させるために野口氏が下した決断である。 「この新工法こそが世の中のためになる最高の技術です。だからこそ、私たちがこれまで取得し主力としてきた数十件の特許技術を捨ててでも、すべてこの新しい『60%カットの新工法』に切り替えることにしました。過去の栄光や仕組みには一切執着しません」

自らの成功体験すら躊躇なく破壊し、アップデートしていく。その決断力とスピード感にこそ、野口氏の真骨頂がある。

「やらなかったことが失敗」―現場の働く人を救い、エネルギーゼロ社会へ

野口氏を突き動かす原動力は、現場で働く人々への熱い想いだ。

「私たちが一番救いたいのは、夏の暑い工場や作業現場で汗だくになって働いている現場の方々です。エアコンの効かない過酷な環境を我々の技術で変え、熱中症のリスクをなくしたい。そしてエネルギーを使わずに快適な環境を創り出すことで、地球規模の『エネルギーゼロ社会』の実現に貢献していきます」

最後に行動を起こす上での信念を伺うと、野口氏は力強く答えてくれた。

「失敗を恐れる人もいますが、私に言わせれば『失敗』なんてありません。唯一の失敗は『やらなかったこと』です。頭で考えたことは全部やる。やった結果はすべて次の経験になるんです」

未知の領域を切り拓き、「遮熱」という新たなインフラを日本に根付かせた野口修平氏。その尽きることのない挑戦心は、これからも多くの働く人を救い、持続可能な未来を照らし続けていく。