Future Leaders
1939年、栃木県宇都宮市生まれ。1962年、日本社会事業大学社会福祉学部卒業後、公立中学の特殊学級の担当教員を経て、栃木県立栃木養護学校開設とともに同校教員となる。退職後、1998年に社会福祉法人パステルを創設し、理事長就任。多機能型事業所やグループホームなど、15の福祉施設を運営。
社会福祉法人パステルは、障がい者支援施設・障がい児通所支援施設・多機能型事業所、グループホーム・相談支援センターを展開し、北関東の福祉を支える存在である。多機能型事業所のひとつである「CSWおとめ」では、小山市の伝統産業である「織物」を生産活動に取り入れるなど、地域に根差した特色ある取り組みも魅力のひとつである。
「ともに支えあう たしかな明日へ」をスローガンに掲げ、地域社会と共生する福祉を目指す理事長の石橋氏に話を伺った。
石橋代表は大学卒業後、中学校の特殊学級の担当教員を経て、新しく開設した養護学校の教員となった。知的障がい児教育に携わる中で、卒業後に仕事が見つからず、自宅に閉じこもってしまうケースが多い現状を目の当たりにし、「もっと一人ひとりの良さを見つけて活かす場を作れるのではないか」と考えるようになった。その思いを胸に、退職金を全額投じて社会福祉法人パステルを設立。当時は障がい者の保護者の方々からの応援が大きな励みになったという。
施設の開設準備を進める中で、最も困難だったのは土地探しだった。こうした福祉施設は地域の協力が不可欠であり、地域住民の理解を得ることが大きな課題となる。石橋代表は当時を次のように振り返る。
「地域の方々にとっても生活する場所ですから、こちらの都合だけで進めるわけにはいきません。『どうして理解してもらえないのだろう』と憤りを感じることもありましたが、もし私の家の隣に『明日から障がいのある方が住みます』と急に言われたら、これからの生活が不安になる気持ちもよく分かる。それに気付いてからは、怒りを感じることもなくなりました。」
反対意見も少なくない中で、自治会や地域住民との話し合いを重ね、共に組織作りを進めることで、現在では良好な関係を築けているという。中には農家の地域住民が作って持ち寄った野菜を販売している施設もあり、石橋代表が自ら築き上げた地域との信頼関係がうかがえた。
現在、パステルは、多機能型事業所、グループホームをはじめ、入所ができる居宅介護事業所や相談支援センターなど、約15施設を開設している。その中で石橋代表は、施設で働くスタッフに「障がいの前に、ひとりの人間であること」を日頃から伝えているという。
「利用者の方々が喜べば、自分も一緒に喜んで同じものを体験してほしい。体を通して学んでいく必要があると思っています。まずは利用者の方々やそのご家族にも喜んでもらい、それによって私たちも喜ぶ。それがお互いの生き甲斐になっていくと考えています。そういう関係性のためには、障がいの有無ではなく『同じ人間であること』を第一に考えてほしいのです。」
こうした石橋代表の思いは、施設運営だけでなく、スタッフの成長や地域社会との連携にも深く影響を与えているだろう。利用者とスタッフ、地域住民が一体となる取り組みが、共生社会の実現に向けた大きな一歩となっている。
石橋代表は、福祉が地域社会の中に自然に溶け込み、特別なものとして区別されない未来を望んでいる。現在の社会では、「福祉」と「一般社会」が分離され、中間的な存在が見過ごされていると指摘する。
「障がいがなくても引きこもってしまう方や、何かの理由で会社を休まざるを得なくなった方など、さまざまな事情を抱えた人がたくさんいます。そういった方々が、1日3時間でも柔軟な形で社会復帰を目指し、生き甲斐を感じながら働ける場を作りたいと考えています。障がいのある方も同じ施設を利用し、福祉という枠にとらわれず、一般の人々と繋がりながら生きる選択肢があっても良いのではないかと思うんです。」
石橋代表の考えの根底にあるのは、「心と心がつながる感覚」が失われつつある現代において、自分自身の生き甲斐を見つけることが、未来を切り開く力になるという信念だ。これは、施設を利用する人々の日々の活動を通して教えられたことだという。
「やりがいを感じられると、利用者さんたちは喜んでここに来てくれます。お友達をいじめたり、暴力を振るったりすることもありません。もちろん、何が起きるかわからない怖さもありますけどね。そういった不確定な部分も含めて、福祉の事業は本当に面白いですよ。」そう笑顔で語る石橋代表。その姿には、地域の福祉を未来へとつなげていく確かな覚悟が感じられた。