Future Leaders
1954年、栃木県生まれ。1976年3月明治大学農学部卒業。同年4月フタバ食品入社。関西工場長、品質管理部長などを歴任し、2011年11月取締役、2021年11月に代表取締役社長に就任、現在に至る。
栃木県宇都宮市。東武宇都宮駅近くに本社を置くフタバ食品株式会社は、アイスクリーム・冷凍食品・マロングラッセを中心に食品を展開するメーカーである。モナカアイス「ダンディー」シリーズやスライスされたレモンがトッピングされたかき氷「サクレ レモン」は、今や知らない人はいない国民的商品だ。
フタバ食品の強みは、その商品開発力にある。「アイスはただの嗜好品ではなく、人々に特別な時間を提供するもの」という信念のもと、次々と新しい商品を生み出してきた。同時に、時代の変化に敏感に対応する姿勢も特筆すべき点だ。近年では、健康志向や環境問題に配慮した商品展開も積極的に行い、企業としての社会的責任を果たしている。
誰もが一度は口にしたことがあるアイスクリームや冷菓を作り続けてきたフタバ食品株式会社。その歩みは、単なる「ものづくり」の枠を超え、人々に笑顔と幸せを届ける挑戦の連続だった。
創業は1945年。終戦直後の混乱期に、わずかな資金でスタートしたフタバ食品は、戦後の食糧難を乗り越えながら次々と革新を起こしていく。当時の日本は冷凍技術の発展途上にあったが、独自の工夫で冷菓をつくり、次第に地元住民から愛される存在となったのである。そしてアイスキャンディーを主力商品としたフタバ食品は、時代の波に乗って成長を遂げる。
1985年、同社の運命を変える商品が誕生する。それが「サクレ」だ。昭和の終わり頃から開発が進められ満を持して発売された「サクレ レモン」は、爽やかなレモンとサクサク食感のかき氷が融合したユニークな商品として一世を風靡した。特に夏の暑い日には、この商品を求める声が全国で高まり、フタバ食品の名を一躍有名にした。
フタバ食品株式会社の商品開発における哲学は単純明快だ。それは「食感を大切にすること」。齋藤社長が語るように、フタバ食品が生み出す冷菓やアイスクリームには、ただの美味しさを超えた“感じる楽しさ”が詰まっている。
1985年発売の「サクレ レモン」は、フタバ食品を代表する看板商品だ。しかし、その味や形は決して完成されたものではなく、つねに進化を続けている。たとえば、かき氷部分の削り方一つで食感や口どけが劇的に変わる。この微調整を繰り返すことで、時代に合わせた商品づくりを行っているのだ。
甘さや酸味といった味の微調整も、毎年のように行われている。過去に大胆な挑戦を試みたこともあった。かつて「蜂蜜レモン」がブームとなった際、サクレに蜂蜜を加えたことがあった。だが「蜂蜜はちがう」と消費者からの厳しい反応を受けた。フタバ食品は即座に対応し、商品の味を元に戻した。この経験は商品開発において「顧客の声を最優先にする」という同社のポリシーを改めて強固にしたと語る。
齋藤社長はことばを紡ぐ。「ありがたいことにサクレにはヘビーユーザーの方々がたくさんいらっしゃいます。あまりにも劇的に変えてしまうと、期待を裏切る結果になります。だからこそ小さな改良を重ねて、時代にあわせて最適化しています」。
1976年の入社以来、現場で培った経験を糧に、会社を深く理解してきた齋藤社長。その彼が社長に就任した際に、特に社内制度や組織運営の見直しに重点を置き、「創業100周年を見据えた基盤づくり」に挑戦している。過去に変化の少なかった教育体制や人事制度、採用プロセスといった分野に手をつける必要性を齋藤社長は感じていたという。「社内制度はずっと同じ形で運用されてきましたが、このままでは未来に対応するのが難しいと思っていました」。
就任直後、社長は全国の事業所を訪問。現場の声を吸い上げるために当時の従業員100名以上から意見を集め、そのすべてに自ら回答した。その労力は並大抵のものではない…メールで寄せられた意見、さらには手紙で送られたものにも一つひとつ向き合い、自らの考えをフィードバックした。この取り組みは、社員にとって「言いたいことを伝えられる」風通しの良い環境づくりにつながったと語る。「社内改革委員会」の設立も、その一環だ。この委員会では、現場から上がったアイデアを具体的な施策として検討・実行に移している。各分科会が運営され、業務の効率化や働きやすい環境づくりが進められている。齋藤社長の言葉には、現場主義のリーダーとしての信念が垣間見える。
フタバ食品は2025年に創業80周年を迎える。その節目として、齋藤社長は会社の理念やビジョンの再定義にも着手した。社員全員に「クレドブック」を配付し、その意義を直接伝えるため、役員と共に全国の事業所を回った。
「理念を形にするだけではなく、それをどう実践するかが大切です」と齋藤社長は強調する。社員一人ひとりと対話し、会社の目指す方向性を共有する姿勢が、組織全体の団結力を強めている。