業界を改革せよ、小山市の葬儀社が描く未来

Future Leaders

 
     
 
奥澤 亮

まちの葬儀屋さん おくりや

代表取締役

 

残された者の想いに寄り添う葬儀社

葬儀は人生の最終章を飾る大切な儀式。しかし、そこに至るまでの道のりをどう歩むのか、また葬儀を通してどのように未来を支えていくのか。そんな課題に向き合い、新たな視点で葬儀業界の可能性を切り拓いているのが、栃木県小山市にある、まちの葬儀屋さん おくりやの奥澤代表だ。

地域と共に歩み、葬儀という一瞬の儀式を超えて、命に寄り添うサービスを提供する奥澤氏。その挑戦は葬儀業界の常識を変え、人々の暮らしを支える存在として注目を集めている。

インタビュー風景

 

「死のときに選ばれる」のではなく「人々の営み全てに寄り添う」企業に

まちの葬儀屋さん おくりやは、長い歴史を誇る家族経営の葬祭業だ。現在その舵を取るのは、4代目の奥澤代表。祖父の代に創業し、おじ、父、そして自身へとバトンをつないできた同社だが、その道のりは決して平坦ではなかったという。

「私が代表になったのは2017年です。それまでは父が社長を務めており、私は専務として会社を支えていました」と語る奥澤代表。大学卒業後すぐに入社した彼だが、当時の状況は厳しいものだった。家族経営の難しさもあり、おじの代で一時は倒産寸前の状況にまで陥ったものの建て直し、現在の基盤を築いたという。

奥澤代表は説く。

「葬祭業はどうしても『死』と向き合う仕事。小さい頃は『亡くなる方のおかげで仕事をしている』という考えが嫌でした。でも今は、それ以上に『生』を支えることで、社会にもっと貢献できると考えています。多くの葬儀社は、亡くなった後のサービスに重きを置きますよね。ですが私たちは逆に、生まれた時から、人生全体に寄り添うことを目指しています」。

 

業界の殻を破れ!新しい価値提供とは

奥澤代表は、葬祭業において従来の枠を超えた新しい価値提供に挑戦している。単なる葬儀サービスに留まらず、生きている間からの支援を通じて地域社会と顧客に長期的な関係を築く。その戦略と実践は、葬儀業界における新たなモデルを提示している。特に特徴的なのは、すべて葬儀社が窓口となり、葬儀社が葬儀後の課題を解決するための「ワンストップサービス」を提供している。相続手続き、死後事務代行手続き、不動産の名義変更や売買、さらには遺品整理やリフォームなどまで、幅広いサポートを行っている。

「葬儀が終わった後、相続や家の片付けなどに直面する方が多いのですが、これらは非常に負担が大きいです。私たちはその窓口を一本化し、顧客の負担を軽減することを目指しています。以前は『価格はいくらですか』という相談が多かったのですが、最近では『アフターサポートが充実しているのでお願いしました』という声が増えています。この変化は、私たちの取り組みの成果だと感じています」。

インタビュー風景

「私たちは会費1回限りの会員制度を作りました。ただし、この会員制度は葬儀時だけでなく、生前からさまざまな特典を提供するものです」と奥澤代表。特典の内容は幅広く、自社運営の飲食店での割引や学習塾の運営費割引など、日常生活をサポートするものだ。「例えば、お蕎麦屋さんやパンケーキ店で使える割引特典を提供しています。これによって、顧客に『葬儀社』としてだけでなく、『生活の一部にいる会社』として親しんでもらえるよう工夫しています。」

また葬祭業界では、特に人材不足が深刻な問題だ。多くの葬儀社では人手不足のため、新人が十分な研修を受けずに現場に出ることも少なくない。しかし『やり直しが効かない』業界だからこそ、慎重な育成を心掛けていると奥澤代表は明かす。

「たとえば顧客の名前の誤記や、宗派の違いによる対応のズレなど、ちょっとしたミスが大きな問題に繋がることがあります。こうしたリスクを減らすため、月に四度のミーティングで事例を共有し、改善策を練っています。」

 

葬儀のニューノーマルを切り拓く

まちの葬儀屋さん おくりや の奥澤代表が手掛ける「家族だけの一般葬」は、葬儀業界の新たな方向性を示す試みとして注目している。少人数のプライベートな空間で、故人を静かに見送るスタイルだ。その背景には、現代社会の変化や葬儀に対する価値観の多様化があるという。

式場

「最近は家族葬の需要が増えています。特に、最後は身近な人だけで送りたいという要望が多いです。私たちは、ご親族と一般会葬者のどちらの想いにも応える形でこのサービスをスタートしました」と話す代表。家族や親しかった人とみんなで一緒に故人を見送る空間を提供する。小山祭典具が描く未来像は、葬儀という一度きりの場において、故人と遺族が心から納得できるサービスを提供すること。その取り組みは、葬儀業界の在り方を問い直す大きな一歩となっている。

亡くなった時だけでなく、元気な時からずっと関わり続ける企業。奥澤代表の視線の先には、地域の暮らしを支え、顧客との絆を深める未来がある。「葬儀業界は変わりにくい業界だと言われますが、だからこそ新しい挑戦が必要です。地域の方々に信頼され、必要とされる存在であり続けたいと思っています」。有限会社小山祭典具の取り組みは、葬儀業界における新たなスタンダードとなる可能性を秘めている。命の終わりだけでなく、その生の始まりから終わりまで支える──それが奥澤氏が描く、これからの葬祭業の姿だ。