大工職人が設計・施工。人生100年時代でも長く住める安心の家

Future Leaders

 
     
 
前田 信夫

有限会社前田工務店

代表取締役

 

栃木県大田原市出身。高校卒業後に実父の経営する前田工務店に入社。建築工事に従事。平成3年12月に宅地建物取引主任者(現在の宅地建物取引士)資格試験合格を取得。平成6年1月二級建築士免許登録。平成7年4月有限会社前田工務店設立に際し取締役に就任。平成17年4月代表取締役に就任し現在に至る。

「信頼第一」の寄り添う家づくり

「現場を預かるのは全て自分。お客様と直接ご要望をお聞きして工事に関する全てのことを把握しながら信頼関係を築き、現場に活かすことが出来ます。」そう語るのは、大工職人の前田信夫氏。地域で愛され続けてきた前田工務店を父から譲り受け、現在は代表取締役を務める。建築工事及び設計業務を全て自分で行うというこだわりようは「個々のお客様との信頼を大切にすること」という大工職人として代々受け継がれてきたポリシーだ。

そんな前田代表は、高校卒業と同時に大工の父から厳しい指導を受ける。「若い頃は衝突することもありましたが、大工職人として叩き込まれた技と心を得て、木と会話をしながらその材質を活かすことができるようになったと思っています。今では少なくなっている和室の作りや古民家の再生など、知識と経験を必要とする物件も得意とするところです。」と亡き父から叩き込まれた技量を存分に発揮する一方で、二級建築士として一般住宅の設計も行う。図面上では分からない住空間をイメージしながら、大工職人として更に理解を深めて現場をとりまとめることができる。

 

木に触れ・木と対話する現代に生きる職人技

大工として働き始めた頃は、工事が決まると必ず、作業場に材木が納品され、材木の一本一本に「墨付け」という作業を行う。木材を加工するために目印をつける大切な作業です。木の質や癖を見ながら時間をかけて進めていき、間違えてしまうと材料も時間も余計にかかるなど肝心な作業になる。それが終わると「刻み」と言う加工になるが、それに使われるノミやカンナなどの刃物の手入れをすることも時間をかけて習得する。

「刃物の手入れは職人の基本です。刃物の切れが良いと良い仕事ができるからです。 5年目になった時に、初めてその作業を親方である父に、全部一人でやってみろ、と言われ任されたアパートが上手くいった時に達成感を感じ、とても仕事に自信が持てるようになったものでした。」修行当時を語った。

作業風景

しばらくして、今では当たり前となったプレカットが出始め、前田工務店にも導入された。「プレカットを使った時は、衝撃でした。」と技術革新に感嘆した。刻みまで完了した材木が現場に直接納品になる。そのスピードと正確性は衝撃そのもの。 しかし、習得した技術が不要の産物になったとは一切思っていない。「経験してきたことに無駄はないです。その経験で、木の質や使い方を習得できました。今でも墨付けや刻みをやることがあります。その時々で変わった表情を見せてくれる木とのふれあいはとても面白いです。」

 

国産材に家づくりの原点を見た瞬間

住宅メーカーの波に押され、外国産の木材や建材をメインにして作る家の工事もたくさんやらざるを得ない時期があった。そんな中で任された新築工事に思いがけない気づきを得た。「その家は、大黒柱や格天井、差し鴨居に式台框、丸太土庇などのある家でした。重く大きな無垢材をたくさん使ったこの仕事をした時に、やっぱり木が好きで、木を使った仕事がしたいと改めて気づくことができました。」と木材の奥ゆかしい温もりを再確認した前田代表は、本当に自分がやりたい仕事をしていこうと強く思うようになったという。

梁

「住宅は生活をするために大切なものです。それだけに体に負担の少ない家に住んでほしいと願っています。」昨今の傾向として、断熱性を重視するために窓が小さかったり、屋根や軒・庇が小さな家も見かけるが、窓は太陽の光で部屋を明るくして暖めたり、自然の風で風通しを良くして室内の換気をしたりする重要な機能がある。他にも、屋根や軒・庇は外壁の劣化を防いだり、雨風をしのぎ、夏の強い日差しをコントロールして室温を調節する。このような日本の四季を感じながら、自然の力を活かせる日本で古くから使われてきた住宅の良さをを伝えていきたいと熱く語る。そして、子供の成長や家族構成の変化、老後に向けた備えというライフイベントに沿って、その家に住む人の状況も変わっていく。「その時々に合わせた生活が快適になるような間取りの変更や設備工事が可能な対応も、長い期間にわたっていつでも相談して頂けるような工務店でいたいと思っています。」と人生100年時代の今だからこそ考えさせる家造りを提案する。

 

信頼の技術は地域に愛される「祠づくり」

一般住宅の工事をメインにやってきた前田工務店だが、お寺で新築の祠を建てるプロジェクトに抜擢される。まさに地域からも最も厚く信頼された大工職人である証拠だ。檀家さんの中にお客様がおり、強く推薦して頂いた事もあって期待に応えるべく思い切って挑戦したという。「約1坪ほどの建物の中に職人の技を盛り込みました。彫刻にも挑戦しました。手間がかかりましたが、とても充実した時間でした。大きな法然上人像を守るその祠は、柔らかなそのお姿にぴったりの建物になり、完成した喜びとともにまたひとつ自信をもって進むための良い機会となりました。」と嬉しそうに語る。今後も祠や鳥居などの社寺に建つ建築工事にも取り組んでみたいと職人魂に火が灯る機会だった。

 

守り継ぎたい大工職人の技

今後は、ゼロから作り出すことのできる新築工事の受注を増やしたいと大工職人としての心中を語った。小さな工務店でも新築工事を任せられるということを再認識してもらい、地域に必要とされる会社として存在するためにも家づくりの受注は必要不可欠だという。「現在、頑張っている大工さんの多くは、下請として仕事をすることがとても多いです。でもそれだと、本当はこういうやり方じゃない、違う材料を使ったらもっとよくできるのにと感じるように、自分が作りたいものを表現することができないです。そういう仕事を続けていると大工職人の価値も下がってしまいます。そしてだんだんに本当の職人が減っていってしまうのではないかと心配です。」

最近では、国が定める住宅の基準が環境に優しいものになってきたり、住宅設備の進化もあり、断熱性能が向上している。自然の恵みを活かしながら、体に負担の少ない家に長く住むことでその住み心地の良さを実感して欲しいという願いを届けるべく、この国に昔からある在来軸組工法の良さを広め、その技術を見せて伝えていきたいと野心を燃やした。

栃木の恵み「八溝材」に支えられて

前田代表が生まれ育った大田原市は、県の北部に位置する遠くに八溝山系の山々が見える平らな町だ。車で1時間ほど走ると那須高原や日光国立公園に行ける。その八溝山系で伐採される八溝材を昔から好んで使っているという。「ウッドショックなどがあり価格が上昇しても、産地がすぐそばにあるという安心感の下で、その良さを再確認することができました。この土地で育った木をこの土地で使うことに喜びを感じています。自然に逆らわずにのびのびと過ごせるこの地域は、材料の調達や物流も良く仕事をする環境もとても良いです。」地域に愛される前田工務店の技は地元に根付く大自然の恩恵のもとに提供されている。