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1989年、栃木県矢板市生まれ。大学を卒業後、一般企業に入社。2014年、有限会社マルハチの機械の修理やメンテナンスをする株式会社田原商会に入社し、製材機械の修理や木材について学ぶ。2017年、有限会社マルハチに入社。2019年専務取締役就任。
栃木県は、県土の54%を占める広大な森林面積を誇り、質の高い木材を産出する豊かな地域資源に恵まれている。暑すぎず寒すぎない気候が、木材を長い年月をかけて丈夫に育てる環境をつくり、目の詰まった良質な木材を生み出す。「栃木には、こうした良質な原材料が豊富にあることが強みです。」と語るのは、有限会社マルハチの専務取締役である渡邊氏だ。
マルハチの歴史は1956年に遡る。創業者である故渡邊喜八郎が戦後の高度経済成長期、日本の復興とともに矢板市で木材産業に携わり始めたのがきっかけだ。その後、自ら独立して小さな製材工場「渡辺製材所」を立ち上げた。創業から34年、1990年には現在の場所に新工場を建設し、社名も「マルハチ」に変更。名前の由来は、創業者の名前「喜八郎」の「八」を取り、「丸」と組み合わせて名付けられたという。
マルハチの製材における最大の特徴は、仕入れる原木へのこだわりだ。一般的に山から伐採される丸太の半分ほどは曲がっていると言われるが、マルハチでは「直材」のみに限定して丸太を仕入れている。このこだわりによって仕上がった木材は、土台や柱として優れた強度と直進性を持ち、住宅メーカーやプレカット工場から高い評価を受けている。「直材に絞っている製材工場は少ないため、こだわりを持つお客様に選ばれています。」と渡邊氏は胸を張る。
現職に就くまでの経験の中で、渡邊氏の歩みを語る上で欠かせないエピソードがある。それは、かつて修行をしていた機械修理屋での出来事だ。機械の知識もないまま飛び込んだその世界で、入社当初は毎日のように師匠から怒られていたという。ある日、製材工場での機械設置工事の現場で、段取りの悪さやミスを指摘され、昭和気質の師匠から「反省しろ」と厳しい指導を受けた。「不甲斐なさや悔しさ、苛立ちが入り混じった感情を抱えていました。でも、それが逆にバネになりました」と当時を振り返る。自分自身の立ち回りや技術を徹底的に見直し、努力を重ねた結果、師匠との関係も改善。その後、製材会社と修理会社として信頼できるパートナーシップを築くことができたという。
渡邊氏が専務に就任したのは、マルハチに入社してから年数も短く、経験も浅い時期だった。不安もあったが、「これまでの経験や仲間のサポートを頼りに、前向きに取り組む覚悟を決めました。」と語る。そして、専務としてまず着手したのは、地域資源を活かした「木育活動」だ。森林資源が豊富な矢板市に根ざす企業として、子どもたちに木材や森について知ってもらう取り組みを開始。市内の幼稚園や保育園を訪れ、ヒノキの廃材を活用した時計作り体験や森林の話を通じて、木に触れる機会を提供している。
「私自身、学生時代には木や森に触れる機会が少なく、もっと身近に感じてほしいという思いがありました。この活動を通じて、製材に興味を持った子どもたちが大人になり、一緒に働ける日が来ることを願っています。」
地域資源であるヒノキを活用し、マルハチが現在最も注力しているのは「JAS材(日本農林規格材)」の普及だ。JAS材は、木材の強度や含水率が明確に格付けされており、安心して使用できる材料として大きな価値となる。マルハチも2019年にJAS規格を取得して以来、確かな品質の木材を提供する体制を整えた。特に2025年に予定されている建築基準法の改正を見据えて、今後増えるであろう強度基準を満たす木材の需要に対応すべく、普及に向けた取り組みを続けている。「まだ出荷量は少ないですが、JAS材を安定的に供給できるよう体制を強化していきたい」と、さらなる成長を目指す意気込みを語った。
製品作りに対する姿勢についても、マルハチの信念が表れている。「私たちが作っているのは、住宅の骨組みとなり、家を支える最も大切な部分です。だからこそ、原材料の仕入れから製材まで、真面目に、丁寧に、真剣に取り組んでいます」と語る渡邊氏からは、「家を支える木材が、家族の安心を支える」という強い責任感が感じられた。
また、栃木県の地域特性も、マルハチにとって大きな強みとなっている。栃木県は木材需要が高い首都圏にも近く、マルハチでは製品の大部分を宇都宮の木材市場に出荷している。そこから県内や首都圏、さらには全国各地に木材が供給される。この地域の地理的利点を活かし、物流の問題を乗り越えながらも、良質な木材が迅速に市場に届けられる体制を築いている。
マルハチが目指すのは「日本で一番良いヒノキの土台を作ること」だ。品質と量の両方にこだわり、ひとつひとつの製品を丁寧に作り上げることに全力を尽くしている。渡邊氏は、「住宅の骨組みを支える土台が家の中でも最も重要な部分であり、だからこそその製造においては細部に至るまでこだわりを持ち続けるべきです。」と語る。
また、社会的責任の一環として、SDGsにも積極的に取り組んでいる。地域資源を活用し、持続可能な森林管理を行うことで、環境への配慮を忘れずに製材業を営んでいる。渡邊氏は、SDGsという世界規模での目標に向かって、矢板市という地域に誇りを持ち、地元経済や社会の発展にも寄与する企業でありたいと考えている。栃木から全国へ、さらに世界へと木材を提供する企業として、マルハチは今後も成長し続けるだろう。渡邊氏は「地元矢板市の発展とともに歩み、地域資源であるヒノキ材の価値を最大限に引き出すことがマルハチの使命です。」と力強く語った。