「縁を大切に」スポーツ整形外科のスペシャリストが紡ぐことば

Future Leaders

 
     
 
上本 宗忠

医療法人一燈会 かみもとスポーツクリニック

理事長

 

1964年鳥取県生まれ。1989年に自治医科大学を卒業後、鳥取県立中央病院で初期研修、以後10年間県内の総合病院内科・外科、診療所に勤務。その後自治医科大学付属病院での勤務を経て、2005年かみもとスポーツクリニックを開業、現在に至る。

ポイントは“治療即予防”

 栃木県佐野市にある「かみもとスポーツクリニック」は、スポーツ選手のけがに対するトータルサポートを提供する専門クリニックだ。ドクターによる的確な診断、柔道整復師による痛みや炎症のコントロール、理学療法士(PT)による局所の機能障害の改善、そしてアスレチックトレーナー(AT)による復帰に向けた全身の動作修正など、多職種が強固に連携した体制を整えている。

クリニック外観

 クリニックの代表である上本院長が大切にするのは「選手一人ひとりの夢と希望に寄り添い、その実現のために医療チームとして全力を尽くすこと」である。これは、クリニックの理念である「悩み苦しんでいる選手を一人でも多く幸せにし、笑顔と元気を取り戻してもらい、その喜びをスタッフ全員で共有する」という永遠のテーマに通じるものだ。

「私たちが行うのは“治療即予防”です。ここでの治療が同じけがを繰り返さないための予防につながり、けがを通して選手がさらにレベルアップできる場にしたいと考えています。選手自身が自ら気づき、自ら変わっていける成長の場でもあるのです。もちろん、けがはつらいものですが、それをプラスに捉えて積極的な成長のきっかけにしてほしい。これこそが、私たちのコンセプトです」

 選手のけがを的確に診断し、迅速に治療を行うことで、なぜけがをしたのか自ら気づき、どう解決するべきかを主体的に積極的に考えて取り組んでいく。このトータルサポートこそがクリニックの大きな魅力につながっているだろう。

 

挑戦に必要だった「人間力」

 上本院長は自治医科大学を卒業後、地元である鳥取県に戻り、医師としての経験を積んだ。その中でスポーツ外来を担当していたが、選手に対するトータルサポートの必要性を痛感。「選手の現場復帰までを一貫して支援できる施設を自分で作るしかない」と決意し、2005年6月開業に踏み切った。開業地には栃木県のみならず近隣県からのアクセスが容易なエリアが必要で、栃木市での開業も検討しつつ、最終的に佐野市を選んだのは上本院長の先見の明があった。

「佐野市にはイオンもあり、 これから発展していくんだろうなという土地の勢いを感じていました。当時は東北自動車道だけで、新しく北関東自動車道ができ、ここはそのふたつがちょうどクロスする佐野ICから下りてすぐの立地だったんですよね。治療に困っている選手が通院しやすいのではと考えました。また、地域の皆様もとても温かく、県外から来た私のことも快く受け入れてくれる環境であったことにとても感謝しています。」

インタビュー風景

 順風満帆に見えたクリニック経営にも、開業から3年目で大きな転機が訪れた。当時の自分を振り返り、上本院長は「優秀なドクターなら開業も簡単にうまくいくと勘違いしていました」と反省を込めて述懐する。クリニックが発展する方向性も定まらないまま運営を続けた結果、8人いたスタッフの半数が退職する事態に。「ただの仲良し集団になり、スタッフから持ち上げられて満足していた自分の未熟さに気づかされました」と語る。

 そんな上本院長を支えたのは、知人から偶然受け取った書籍だったという。書籍を通して、自分に足りなかったのは人間力だと気づいた。そこから古典や先人の知恵を学ぶようになり、経営の戦略やクリニックの方針にもその学びを活かしていった。

 

選手の競技復帰…カギは“PFCC”

 クリニックでは、施設の一部で選手が全身の動きを確認しながら現場復帰までサポートできるハビリ施設「PFCC(Pre-Field Conditioning Center)」を運営している。屋外を意識した全天候型のこの施設は、木造で天窓もあり自然のぬくもりを感じられ、トレーニングに集中できる環境が整っている。

「治療をしていると、選手から『もう走ってもいいか?』『もうボールを投げてもいいか?』と相談を受けることも多くあります。治療中や回復途上の選手が、PTやATと一緒に実際の動きを自分で確認しながら、身体の変化に気づく場として、このセンターを2013年3月に立ち上げました」

 今後はこのPFCCを単なる治療の場としてだけでなく、多くの人々が集まり、交流できるコミュニティの場に育てたいと考えている上本院長。「地域の皆様が自由に集まり身体を動かせる場として、気軽に参加できるよう、毎月トレーニング会も開催し、選手だけでなく幅広い層に健康維持の重要性を伝えていきたいです。」と意気込んだ。

 

スポーツの専門家として役目を果たすために

 現在、日本の医療環境は、患者が医師に与えられることに依存しがちな受け身的な医療に陥りやすいといわれている。今後は自分の身体の変化に気づき、自分から変わるという患者中心の主体的な医療が必要になっていく、と上本院長は語る。

スポーツ医学のスペシャリストとして、私自身がメッセージを発信することに改めて重要性を感じています。整形外科としては、そういった患者さんの継続的な意識の高まりで大きな予防になりますし、ずっと自分の身体を動き続けられることが今の日本に必要な健康寿命の延伸にもつながると思っています。」

 医療法人名の「一燈会」は、天台宗の祖である最澄の「一燈照隅、万燈照国」という言葉からとった。「一人ひとりが自分の生きがいや人生の役目に気づき、それらを結集させることで国を照らす力となる」という思いが込められている。「未来に何を残すのか、次世代に何をつなげるかが自分のこれからの人生のテーマだ」と語る上本院長が、今後どのような目標を掲げ、クリニックの理念に共感するスタッフと組織を発展させていくのか。患者主体の医療の実現を目指すその挑戦から、目が離せない。