Future Leaders
大学卒業後、旅行会社へ勤務。1994年大塚実業へ入社。翌年に発生した阪神淡路大震災にて多くのお客様の被害を目の当たりにし、現場で陣頭指揮を取りながらも自らが被災地支援活動を行なう。事業支援を通して独自の解析方法と従来のフィルターに対する改善も行ない、お客様目線を取り入れた事業スタイルを確立。2005年東京支店へ移動、2009年代表取締役へ就任。2014年から稲盛和夫の”在り方経営”を学び100年ビジョンを設定し、ビジョンに沿った海外進出と社内改革を進めている。2017年Asia Golden Star Award 全4部門を受賞、マスター大賞受賞。その他、公益資本主義推進協議会東日本統括理事、日本液体清澄化技術工業会副会長理事、日本分離学会、TerraRenassanceやCIESFなどをサポートし社会貢献活動にも奔走している。
栃木県足利市。実は織物の産地として歴史が深く、そのはじまりは西暦700年代の奈良時代にまでさかのぼることができる。 産業として一大産地になるのは江戸時代後期とされており、徒然草にも「さて年毎に給はる足利の染物(織物)」という文言が存在している。そんな「織物の町」足利で創業し、現在「濾(ろ)布」と呼ばれる繊維が編み込まれたきめ細かいフィルターを全国に展開している企業がある。
大塚実業株式会社は生地の製織から裁断、縫製と一貫したワンストップ製造を武器に、様々な業種・業界で使用されているフィルターの製造に携わっている企業だ。小ロット多品種の生産を可能にしている製造ラインを有し、また50年以上お客様に寄り添うことで培ってきた実績やノウハウは、業界内で「技術の大塚」と評されている。
濾布とは、弱める・分離するなどの機能をもつ布を指す。繊維(織物)で出来た「フィルター」だとイメージすればわかりやすいだろう。日本酒の製造過程で使用する布から、大手製油会社のメイン工場で使用される特注製の布まで幅広く手掛けている。
創業者である父から受け継いだ二代目の代表取締役社長、大塚雅之氏が語る代表としての覚悟、そして未来への思いとは。
大塚実業株式会社の創業は1973年。繊維の総合商社で、アパレルから工業資材など様々な繊維を扱っていた創業者は、安定性のある事業にするために、当時から流行などに左右されず、工場など生産過程で必須になるような高い性能をもつ繊維の製造をメインにしたいと考えていた。創業当初はエアコンなどの空調用フィルターをメインにしたいと思案していたが、時代の流れを読み取り方針転換し、現在の主流である液体分離に特化したフィルターを扱うようになったという。
大塚代表は創業家ということもあり、学生のころから会社でアルバイトしたり、社員と食事を共にする機会が多かった。創業者の長男である代表はゆっくりと後継者としての実感を得てきた。
しかし、イベントの企画運営を主催してきた学生時代を過ごしてきた大塚代表は、当時からやってみたいことがあった。それが「旅行から始まる会員制顧客向けのサービス展開」だ。インターネットもあまり普及していない時代、旅行サービスを通じてさまざまな視点から各顧客それぞれのニーズを捉えられるコンセルジュサービスに似た事業を展開できるのでは、と考えていた。
そのため大学の工学部を卒業後、新卒で旅行会社に就職した大塚代表は、30歳までに経験を積み、ゆくゆくは旅行業として独立することを密かに計画していた。しかし25歳のときに創業者である父が倒れたことで、意を決して代表は大塚実業に入社する。
理系出身とはいえ、製品に対する知識やノウハウがゼロだった入社当時の大塚代表。入社してからの3年間は、阪神淡路大震災で被災した大阪営業所の営業活動を支援するかたわら、技術畑だった当時の上司から、フィルターに関する知識やものづくりに対する姿勢をゼロから叩き込んでもらったという。「彼も僕も実験が大好きだったので、ああでもないこうでもないと、二人でいっしょに文字通り毎日やっていました。おかげさまで30歳になるころには、フィルターに関するあらゆる考え方や経験が、みっちりと体に刻み込まれていましたね(笑)。当時はお互いに独身だったからこそできたかもしれませんが、今振り返ってみても、あのとき過ごした時間は自分にとって非常に大きいものでした。」
「私たちは、家族・共に働く仲間・顧客・仕入先・地域社会等、全ての関わり合える人々の幸福と笑顔を創造する。そのために、社業を通じて、人と事業の可能性を探求し、自然と環境を護る。これを未来へ継承する。」
これは大塚実業株式会社の経営理念だ。まずは身近な仲間の幸せと成長を願い、地域に貢献し、社中の人々の幸せを願うということを一番大切にする。そのために、当然のことながらお客様の目線に立ち、しっかりとお客様の要望をヒアリングし、ご提案させていただくことを心掛け、喜んでいただける製品を作り続けることに日々取り組む。そして原理原則、ものごとの本質を考えることが大切だと大塚代表は語る。
「この経営理念は僕が明文化しました。父が定めた社是・社訓はもちろんありましたが、会社組織がどう在るべきかという概念については定まっていませんでした。なので僕が代表に就任したタイミングで、この会社の存在意義を当時の幹部と考え、僕が定めました。創業者である父は熱い意志で、この今の会社組織たらしめる太い柱と、それを強固なものにする大きな土台をつくってきました。その父の後を継いだ私の役目は、その太い柱を守る壁をつくることだと考えています。」
50期を越えさらに50年続く企業であるために、この折り返しを再スタートと考え、新たな土台形成をおこなっているという大塚実業株式会社。なぜなら、私たちには水という限りある資源を護り、未来の人々が困ることのない世界をつくるという大きな目標があるからだと大塚代表は語る。この目標達成のために、効率化や機械化ということも考えていかなければならない。ただ、代表は“絶対に方法論に囚われてはならない”とこぶしを握る。
「要は、“なぜするのか”自分なりに考えて動かなければ元も子もない、ということです。単にお客様の要望を聞いて必要な手段を提供したって、僕からすればそれは作業と同じ。サプライズの誕生日プレゼントのようにお客様に喜んでいただくことが、私たちの喜びでもあります。そのためには会社としてお客様がなぜそう思うのか、そうしたいのかを徹底的に深堀りしていかなければなりません。
年月を重ねるごとに情報は増え続け、耳ざわりの良い方法論がより世間に出回るようになったこれからの時代だからこそ、相手が叶えたい目標、ひいては相手にとっての幸せが何なのかを考え、そのために行動することに非常に価値があると考えています。その行動こそが弊社における仕事です。社内でも、社外でもこの考え方に変わりはありません。特に情報を整理する能力に長けている若い方にこそ、この考え方を知ってほしいと願っています。」