社内に浸透した理念経営で、新しい価値を栃木に。

Future Leaders

 
     
 
郡司 成江

ビューティアトリエグループ

代表

 

栃木県生まれ。大学卒業後、英ヴィダル・サスーンアカデミーに留学し、現地サロンで経験を積む。 帰国後、母の経営するビューティアトリエグループに入社。サロンワークや外部でのヘアメイクなどキャリアを重ね、2010年に代表取締役就任。NLP実践心理学マスターカウンセラー、一般社団法人ベストライフアカデミー マスターサクセスナビゲーター、骨格診断ファッションアナリストの資格を所有。

美容師は美と健康の“顧問”でなければならない

ビューティアトリエグループは、1963年創業者の田中千鶴氏が宇都宮市内にマリモ美容室のオープンから始まった。創業から61年、美容室とメンズサロンを主に、宇都宮市内に11店舗、海外にも店舗展開を広げている成長中の美容グループだ。現在代表を務める郡司代表は、創業者である母からバトンを受け継いだ。美容師という仕事は単に髪を切るだけではなく、ライフスタイル全般にわたる提案ができる職業であるべきだと郡司代表は語る。

「私たちが目指しているのは『ライフスタイルビューティーコンサルタント』という、いわば美に関する顧問のような存在になることです。美容師がただの技術者ではなく、お客様の健康と美をトータルでサポートする仕事を担うことで、美容師自身も充実した働き方ができ、お客様もより健康的で幸せな生活を送れるようになる。それが私たちグループの大きなテーマです。」

ウエディングドレス姿

実際、美容師は健康を害して辞めてしまうケースが少なくない。その一環として、ビューティアトリエではスタッフの健康を考え、無農薬農業に取り組んでいる。年間を通じて、スタッフからの希望に合わせて、葉物野菜やじゃがいも、かぼちゃなどを栽培するという。さらに内面からの健康を支える取り組みとして、5年前には米粉を活用したバウムクーヘン屋を始めた。

美容師の仕事を「健康」と「美」という広い視点で捉え直し、新たな価値を提供するビューティアトリエグループ。その取り組みは確実に、美容業界における新たな道を切り開いている。

 

二代目として、何を残し、何を新しくするか

大学卒業後、郡司代表は美容師としての技術を学ぶ道を選び、短期間で集中して学べるロンドンの専門学校へ留学した。専門学校卒業後もさらに1年半ほど現地で経験を積み、技術を磨いた。そして帰国を前に、「若いうちに最も厳しい環境に戻るべきだ」とのアドバイスを受け、母が創業したビューティアトリエで働くことを決め、そのまま地元栃木へ戻る。美容師として現場に立ちながら、人材育成や技術指導を担当。次第に店舗運営や経営にも携わるようになり、2010年に代表に就任した。

代表就任にあたり、「企業として『守るべきもの』と『進化させるべきもの』をしっかり見極めなければならないと考えました。」と当時を振り返った。評価制度や社内システムの整備といった構築すべき部分に加え、目を向けたのは「サービスのあり方」。当時から競争が激しい美容業界で、独自性を出すことが重要であった。

美容室内装

ビューティアトリエは、当時から安売りではなく高品質を重視し、多くの顧客に支持されていた。しかし、単に「技術が良い」という評価だけでは全ての顧客に満足してもらえるとは限らない。そこで「技術以外に何を提供できるか」を模索し、2つの柱を確立した。

「1つ目は『おもてなし』です。20年前から始めた取り組みとして、すべてのお客様に手書きのメッセージを添えることを徹底しています。心からの感謝を形として伝えることで、目に見えるサービスとしての『おもてなし』を提供しています。2つ目は『新鮮な技術』。技術は美容師としての当然の基盤になりますが、ファッションと同様に時代によってトレンドが変化します。経験年数に甘んじず、常に最新の技術を学び続ける姿勢を持つことを重視しています。」

 

進化する「魔法の書」の秘密

店舗数や事業が増える中、現場にいるスタッフ一人ひとりが会社のミッションに沿った選択ができなければならない。そのためには社内全体に浸透した考え方や基準が必要になるだろう。ビューティアトリエでは「魔法の書」と呼ぶ企業としての方針書を毎年作り込んでいるという。

「私たちは理念経営を中心にやっているので、会社の理念・ビジョンが共通になるように方針書として明確化しています。私自身の考え方や、『こういう風にしてほしい』『こういう風になりたいよね』というみんなへのメッセージもまとめていて、 悩んだらこの「魔法の書」に戻ってくる子も多いみたいですね。」

当初は郡司代表自身で手がけていた魔法の書も、現在は9割近くを社員が担当している。さらには、テキストだけでの完全理解は難しいとして、図式や映像でビジュアル化を用いて理解してもらいやすい形へ進化を続けている。郡司代表が今でも担当するのは毎年の共通テーマである。「2024年のテーマは『心象風景』。お客様の心に残る、記憶に残る仕事をしてほしいと込められています。」と語った。ビューティアトリエのおもてなしや新鮮な技術にも通ずるものである。

このような取り組みによって、採用活動もスムーズになったという。郡司代表も「社内見学をしてもらう中で、こういう人たちと働きたいなと直感的に感じる人が面接を受けてくれるから、同じ方向性を向いてくれる人たちが集まっているという印象がありますね。」と確かな手応えを感じていた。

 

美と健康の地位向上を目指して

独自の人材育成の取り組みを通じて事業を展開してきたビューティアトリエ。業種柄、若い世代の成長に関わる機会が多い郡司代表は、「若い人たちのパワーやアイデアには本当に驚かされます」と語る。

「現在、大学生と一緒に『成人式プロジェクト』という取り組みを行っています。成人式の内容を私たちだけで考えるのは難しいので、世代の近い大学生たちから意見をもらい、『こうしたらいいんじゃないか』『こういうのがあったら嬉しい』と一緒に話し合いながら撮影や準備を進めています。この世代で特に感心する部分は、仲間と一緒にやることでさらに大きな力が発揮されるということです。自分の得意分野を生かし、仲間と協力しながら進めることで、自信を持てるようになる。これは、今の時代にとてもフィットした成長の仕方だと思います。」

そして、日本における美容や健康分野の認識向上にも課題を感じているという。「日本ではまだ美容や健康が生活における重要な要素として十分に認識されていない部分があると感じます。私たちプロフェッショナルが努力を続けるだけでなく、お客様にもその価値を知っていただき、共に高め合えるような社会を目指したいですね。」と語った。健康と美をトータルで支えることで、自分らしく健康な生活を送ることができると強調する郡司代表からは、まさに「トータルビューティー」の考え方が伺えた。