JR九州クルーズトレイン「ななつ星in九州」が選ぶ至高のドアハンドル

Future Leaders

 
     
 
高橋 牧子

すがたかたち株式会社

代表取締役

 

筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了、パリ国立高等美術学校フランス政府給費留学、文化庁派遣芸術家在外研修員の夫・高橋靖史と2005年にニューヨークへ渡る。現代アーティストとして活動する夫と2012年に暮らしと芸術の調和をめざし「すがたかたち」を創業。2024年に法人化。すがたかたち株式会社の代表取締役に就任し現在に至る。

ななつ星の「ドアハンドル」

誰もが一度は乗車してみたい憧れの高級寝台列車であるJR九州クルーズトレイン「ななつ星in九州」。この木製ドアハンドルと手すりの製作を担当したのが、すがたかたち株式会社(当時は非法人)だ。国内外で現代アーティストとして活動した高橋靖史氏(代表の夫)が2005年に家族でニューヨークに渡り、帰国後、庭・茶・書に結晶した洗練された日本人の「しぐさ」を改めて発見し、暮らしと芸術の調和をめざすべく、布作家として活動していた妻の高橋牧子氏と2012年に創業したのが「すがたかたち」。夫婦ともにアーティストとしてお互いに手を取り合い作品を手掛けてきた。

創業の2012年より、パリで開催されるインテリアの国際見本市メゾン・エ・オブジェに毎年出展。 2014年からはフランクフルトの国際見本市アンビエンテやシカゴのホーム&ハウスウェア・ショーへの出展も開始するなど、国内のみならず海外での評価も最初から目指すほどの野心的な展開を始めた。「と言っても、受注を第一目標にしていた感はなく、毎年根気強く出展したのも、インテリアの代表的な国際見本市で他の出展企業の製品や企業のマーケティングやデザインのトレンドなどを学び、逆に自分たちにできることは何か?自分たちのモノづくりは本当にこれで良いのか?という、見さだめの目的が大きかったと思います。」と、当時の様子を語る。

その後、ななつ星in九州に採用されることになるドアハンドル(=無垢材からの削り出しで非対称的で滑らかな三次元曲面を持ち心地良く手に馴染むデザイン)は、たとえニッチであっても世界に類を見ない、独自のものづくりを目指した夫婦が見聞を深るなかで到達したデザインだった。

 

「しぐさの形象」とは

自然との触れ合い

「すがたかたち」というブランド名の由来を聞いた。「毎日を美しく生きようとする人の姿から美しいかたちが生まれるという発想から、かたちをデザインすることで使い手の立居振舞を美しくしたいという願いが“すがたかたち”の名前のもとです。」と語る。しぐさというはっきりとした形のないものに、形を与えた(=形象化した)デザインにより、ユニークで良質な、長く愛着が持てるものをつくりたいと考えていたという。そして「生きるすがた から 生まれるかたち」をコンセプトに美しい生活空間の創造を目指す試みが“すがたかたち”という言葉に込められている。

「さらにドアハンドルを初めとして、建具、家具、建物をもう一度、優れた意匠と技術で木材に置き換えていくことで、二酸化炭素の排出削減を促進し、持続可能な社会実現をめざしていきたいという想いもあります。」とブランドの奥深さを感じることができる。

 

木製ドアハンドルマイスターの誕生

ななつ星in九州を手掛けたインダストリアルデザイナーの水戸岡鋭治氏さんには、出会う前から注目していたという夫婦。2012年水戸芸術館の現代美術ギャラリーにて開催された「水戸岡鋭治の鉄道デザイン展 駅弁から新幹線まで」に足を運び、鉄道デザインを堪能した。「単純にすごい、列車内にふんだんに木材を取り入れる発想がすごいな、と思って。数々の個性的で心躍り暖かみのある有名列車を生み出されていることに感動し、このモノづくりに参加してみたと強く惹かれました。」それから夫婦の行動は早かった。「それで水戸岡さんの事務所を訪問して、私たちのモノづくりをぜひ見てもらおうって意気込みました。」水戸岡さんから木製のドアハンドルを手にするなり目を輝かせ「握り心地良いね、これいいじゃん」というストレートな感想をいただいたという。

その出会いをきっかけに2013年に水戸岡鋭治氏がデザインを手がけたJR九州クルーズトレインななつ星in九州の木製ドアハンドル・手すりの製作を担うことになった。「モノづくりのトップランナーが集結したようなプロジェクトに参加したことをきっかけに、まだ世の中に無いような木製ドアハンドルを極めていきたいって。これが私たちにとって、ぴったりきたミッションだったんですよね。」創業当初は、木と布を使った様々な製品の手づくりに挑戦していたが、これを機に木製ドアハンドルのデザイン・製造に特化していくことになる。ここに「木製ドアハンドルマイスター」が誕生した。

すがたかたち木製ドアハンドルの魅力

1.ドアハンドルをつかむ手の動きを考えてデザインされた独特なフォルムは、非対称的で滑らかな三次元曲面を持ち、心地良く手に馴染みます。縦・横どちらでもお使い頂けます。
2.金属のように、夏は熱く冬は冷たいということがなく、使うほどに色とつやと愛着が増します。
3.簡単で確実な取付方法を採用していますので、木、ガラス、金属いずれのドアにも取り付け可能です。
4.各種試験を行い充分な強度を備えており、ねじの交換だけで、壁・柱に手すりとして取り付け可能です。
5.全ての製品が最高級のデザイン品質により国内生産されています。世界五大陸で認められ、JR九州クルーズトレインななつ星in九州、クラブメット、フランス5つ星ホテルなどに採用されています。

 

中禅寺湖の湖畔×ドアハンドル

「奥日光中禅寺湖の湖畔にピクニックに行き、子供たちが競い合って興じる石切や、湖面を吹き渡る風や、ボードがつくり出す波紋を飽きることなく眺めていた時に閃いて生まれたドアハンドルがあります。」すがたかたちには、栃木の大自然にインスピレーションを得て開発されたドアハンドルがある。那須烏山市で金属加工会社を営む有限会社佐藤精機の佐藤社長との交流があった夫婦は、そのときの閃きをもとに「Vagues」というシリーズを考案。素材がアルミニウムと真鍮で、波紋のデザインと刃物の削り出し跡が空間の色を反映し、光を複雑に反射し、光のあたり具合と見る角度により様々に表情を移ろわせる視覚効果を持ち、都会の現代的な室内空間においても樹、水、風を使い手に感じさせる金属製ドアハンドルとなった。

金属製ドアハンドル

「海外の展示会で注目と好評を得ることができました。栃木県の自然からインスピレーションを得たデザイン製品を生み出せたことは素晴らしい体験となりました。またそれ以外でも日常から栃木県の田園風景や地元食材、穏やかな人と風土の中でのびのびと暮らして事業を営める事に幸せを感じています。」と日々栃木で感じられる大自然とのセッションが繰り広げられている。

 

「ゆらぎ」をつなぐハンドルへ

「今後の目標は、ヒューマン・インターフェイスとしてのドアハンドルです。心地良い「ゆらぎ」が人の生活や心を豊かにすると信じています。」と力強く語る高橋代表。約150年前まで、私たち日本人は生活用品のほとんどを自然環境に負担をかけず、やがて土に還る木や植物繊維で暮らしをつくってきたといえる。その中には失ってはならないものが在ったことに、今頃になって人類は気付き始めているのではないかと問いかける。

利便性のみの追求から緩やかに回帰し、自然素材に立ち返ることで「選ばれなかったけれど、あったかも知れない暮らしの歴史を新たに生きる」ことができると高橋代表は提唱する。

そして、今この世界で、そうした暮らしを希求する人々が生きる土地であるなら、すがたかたちが生み出す製品は人々に受け入れられ、愛されて使われていくことになるだろう。