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1983年、栃木県宇都宮市生まれ。栃木県宇都宮工業高校建築科卒業後は建設会社に就職、宮大工として勤務。2006年、県立農業大学校とちぎ農業未来塾受講。翌年栃木県農業試験場いちご研究所にて研修を受ける。2008年、赤羽いちご園に就農、翌年代表に就任。2022年GLOBAL G.A.P.(グローバルギャップ、欧州発による世界基準の農業認証)取得。
栃木県宇都宮市にある赤羽いちご園は、地元に根ざしたいちご農園として多くの人々に愛されている。こだわり抜いた土壌づくりと最新の栽培技術を駆使し、丹精込めて育てられたいちごは、色艶がよく、粒の大きさ、溢れる果汁や充実した甘さが特徴だ。その品質の高さは口コミで広がり、購入したい!と遠方から問い合わせを受けたり、一度口にした人はリピーターとなるほど、その美味しさに魅了されるファンも多い。
そして赤羽いちご園では、ただおいしいいちごを提供するだけでなく、地域社会への貢献や農業の未来を見据えた取り組みを積極的に行っている。最新システムを導入しながらも「従業員は家族!」をモットーとした従業員を大切にする農園経営は、次世代の農業のあり方を示すモデルケースとなっている。
いちごづくりへの情熱と、未来を切り拓くための挑戦を続ける赤羽いちご園。その代表である赤羽耕一氏に話を伺ってみた。
「自分が作ったものがずっと残っていく、そんな仕事がしたかったんです」。そう語るのは、栃木県でいちご農園を営む赤羽代表だ。彼の歩みは一見すると農業一本に見えるが、その裏には建築業やサッカースクールのコーチなど、多彩な経験が織りなす独特のキャリアがある。
高校の建築科を卒業後、歴史に残る神社仏閣に携わりたいと一度は建築業界に足を踏み入れた赤羽代表。古くからの技術を継承し、自然の木材を扱う仕事は、「自然との対話」が求められ、後に農業を仕事としたときに、共通すると感じたという。「木材も農作物も生きている。全く同じものは存在しないし、それぞれの特性を読み解きながら手を加える必要があります。」そう語る彼の言葉からは、ものづくりへの深い敬意が感じられる。
建築業を5年で退職し、家業である農業に転身した赤羽代表。しかし農業の経験がなかった彼は、栃木県の農業大学校やいちご研究所で研修を重ね、着実に基礎を築いた。「ものづくりという点では建築と似ている部分もありますが、やはり全く異なる環境で、しばらくは試行錯誤が続きました」。そう語る彼が特に苦労したのは、自然相手の仕事ならではの難しさだ。
自然には抗えない、自然の脅威を前にさまざまな課題に向き合いながら、赤羽代表は「自分にしかできない仕事」を模索していた。
経営を引き継いだのはコロナ禍に突入する直前の話。それまでの期間、父親が主軸となる経営の元で、自らの力を蓄えてきた。その過程で特に注力したのが、視察を通じた学びである。「もっと美味しいいちごを作りたい!」その想いが、数々のいちご農家への視察に突き動かした。栃木県はいちごの名産地として知られているが、土耕栽培がまだまだ主流で、高設栽培が浸透していない。他県では高設栽培の導入が進んでおり、栃木県とは異なる栽培技術がある。赤羽代表が視察を通じて見てきたのは、土地土地の地域性を考慮した多様な栽培技術だ。
「香川県では、水源が限られているため水道水を使った栽培が行われてるんです。また、オランダでは工場のようにオートメーション化された設備でいちごを育てている。どちらも栃木県とは大きく違っていて…とても刺激を受けました」と彼は振り返る。
「農業では多くの場合、繁忙期である収穫期のみに従業員を雇用し、契約は半年単位が一般的です」と赤羽代表は語る。いちご栽培の場合、11月から収穫が始まり、5月には終了する。このため季節労働に依存せざるを得ない現状がある。しかし、赤羽代表はその雇用体系に疑問を持ち、「従業員を大切にする農業」を目指してきた。
「通年雇用を実現するため、いちごと生産期が異なる玉ねぎの栽培を取り入れました。」と赤羽代表は言う。玉ねぎの収穫は6月であるため、いちごの収穫終了後は、玉ねぎの収穫作業と従業員に仕事を提供できる。この取り組みにより、従業員の年間雇用が実現となり、従業員は年間を通じて収入を得られるようになった。結果、農園としても熟練した人材を長期的に確保できる仕組みが構築できた。
「夏場は収入が若干減ることもありますが、繁忙期の冬場は収入が増えることから、通年で安定した給料が見込める環境を整えました。長く一緒に働ける環境を作ることが、自分の目指す農業経営の基盤です」と語る赤羽代表の姿勢には、雇用に対する深い配慮が感じられる。
赤羽代表の取り組みは、農業界において新たなモデルケースとなり得るものだ。従来の家族経営が主流だった農業の世界で、従業員の生活を支える環境を構築しつつ、効率的な経営を目指す。「農業は一人で成り立つものではなく、多くの人の力が必要です。その力を支えるためにも、働きやすい環境を作ることが、自分の責任だと思っています」。その言葉には、農業の未来を見据えるリーダーとしての覚悟が宿っている。
「現在の農家は、生産者としての役割にとどまりがちですが、経営者としての視点がなければ未来は切り開けません」と赤羽代表は語る。生産だけでなく、雇用管理や販売戦略、効率化への取り組みなど、多岐にわたる責任を担うことが農業経営の本質であるという。彼は、こうした課題に真正面から向き合い、農業を進化させる必要性を訴えている。
赤羽代表の農園では、効率化に向けたさまざまな工夫が実践されている。たとえば、水やりの作業を自動化する灌水システムを導入することで、手動での管理に費やしていた時間を削減。さらに地下水の温度を利用したウォーターカーテンという保温技術を取り入れ、電力に頼らずに冬場のハウス内の温度を安定させるなど、さまざまな手法で作業効率を向上させている。「一つひとつの作業時間は短いかもしれませんが、それが積み重なると大きな時間のロスになります。自分にしかできない仕事に集中するためにも、無駄な手間を徹底的に省いていくことが重要です」と彼は語る。
栃木県のいちご農園を営む赤羽代表の目は、国内だけでなく海外市場にも向けられている。彼のビジョンは、単に日本のいちごを輸出するだけでなく、現地生産を視野に入れたグローバル展開だ。将来的には海外に拠点を設け、国外に根ざした生産・流通を実現したいと語っている。「アジアやヨーロッパ、北米といった地域に生産拠点を持つことで、大きな課題となっている輸送コストを削減し、効率的な供給体制を整える。現地の人々に栽培を任せることで、その国の発展にも貢献したい。」と赤羽代表は目を輝かす。
その夢に向かい、踏み出した第一歩として赤羽代表が取り組みはじめたひとつが、ドバイ国での展示会・商談会に出展したことをきっかけに始めた、グローバルギャップ(GLOBALG.A.P.)認証の取得である。G.A.P.(ギャップ)とは、GOOD(適正な)、AGRICULTURAL(農業の)、PRACTICES(実践)を意味しており、それを証明する国際基準の仕組みを意味するのがGLOBALG.A.P.認証だ。世界130か国以上に普及しており、現在は事実上の国際基準となっている。その取得は、食品安全、労働環境、環境保全に配慮した「持続可能な生産活動」を実践する優良企業に与えられる世界共通のブランド。もちろんその取得は決して簡単ではない。しかし、赤羽いちご園では、令和3年からGLOBALG.A.P.認証取得を続けており、今年で4年目を迎える。
赤羽代表の夢に向けての挑戦は続いているのだ。
赤羽代表のいちご農園は、単なる「収穫」の場ではない。土づくりから実ったいちごを手に取るまで、農業のすべてに情熱を注ぎ、彼の目指す「最高のいちご」を追求している。ひとつひとつに魂を込めるかのような丁寧な仕事ぶりが、農園の随所に表れているのだ。
「自然と向き合いながら、形をつくる仕事。建築も農業もその本質は変わらない」と語る赤羽代表。彼のいちごづくりには、彼自身の人生哲学が色濃く反映されている。最後に、赤羽代表は農業に関心を持つ若者たちにこう語る。「農業は簡単ではないけれど、やりがいのある仕事です。ただ栽培をするだけでなく、経営者として視野を広げ、多くの人と力を合わせて新しい価値を生み出していくことができる仕事です。行動を起こさなければ失敗もしない。挑戦をするから失敗もする。ただ、そこで諦めず続ければ、それは失敗とは言わない。失敗を恐れず、挑戦を続けてほしい」。彼の言葉には、農業界を支える若い世代への期待と応援が込められている。