Future Leaders
千葉県市川市出身。大学卒業後、東京の証券会社に勤務、バブル期に営業を経験する。29歳のときに父がオーナーだった宇都宮動物園に入社、その後園長に就任。
宇都宮ICからほど近い宇都宮動物園は、地元から愛されている民営の動物園だ。ホワイトライオンやホワイトタイガーなど人気の動物以外にも、モルモットやウサギなどとふれあうことができる。キリンなどへのエサやりや、実際に世話をおこなっている飼育員がおこなう動物ガイドは人気のひとつだ。
併設されている遊園地は独特の魅力があり、テレビや映画のロケ地にもなっている。また旅行部門ではバックヤードツアーやナイトツアーなど、どの動物園でもなかなか味わえない体験を提供している。
もともと都内で証券会社の営業マンとして活躍していた異色の経歴の持ち主である宇都宮動物園の園長、荒井代表に、話を伺ってみた。
ポップな入口看板や動物たちとふれあえる「なかよしランド」など、親しみやすい雰囲気があふれる宇都宮動物園だが、そのみちのりは意外にも険しいものであった。
宇都宮動物園の前身となる施設として、1969年4月に河内町上田原(現在の宇都宮市)に大都ランド宇都宮動物遊園地が開業。約20万平方メートル、東京ドーム4個分相当の広大な土地に展開されていたという。
しかし1977年に宇都宮市上金井町の現在地へ移転後、1981年に運営会社が倒産。施設自体は黒字経営だったが、施設の利益を運営会社の不採算部門につぎ込み、債務超過となってしまったのだ。経営を引き継いだ債権会社の当時の社長が債務処理のために再スタートしたのが現在の宇都宮動物園である。
2003年に病に伏した先代の園長の後を継ぐため、荒井代表が園長として就任。就任当時は都内の証券会社に営業マンとして勤めており、経営論はもとより動物に対する知識すら十分になかったと語る。「あの頃は手探りの状態でしたので、もう見よう見まねで始めるしかありませんでした。でも売上を上げなければ続けられないというのは、証券会社も動物園もいっしょですよね。ですから今もそうですが、試行錯誤しながら、お客様が来園したいと思ってくれるようなアイデアを出して形にすることをつねに意識してきました。」
民営のため、1日何百キロも食事するゾウのエサ代や設備の修繕・改装など、発生する支出は基本自前で補っていく必要がある。40年以上経っているためもろもろの設備も更新していかなければならない。就任当時から崖っぷちの経営だった。
動物園だからといって、キレイゴトを言っても仕方ない。どのように稼ぐかー荒井代表は奔走した。
荒井代表が形にしてきたアイデアは、ほかのどの動物園にもないユニークなものばかりだ。有名なのは「動物の檻に看板をつくる」広告事業だろう。猛獣ライオンの檻やサル山、動物園の通路沿い…いたる所に地元の企業の広告が設置されているのだ。そのすべてが飼育員による手書きというのだから驚きだ。
コロナ禍で集客イベントの開催ができない時期にも、代表の手腕は光っていた。ゾウのフンを煮詰めて取り出した繊維質を原料とした「ウンがつくお守り」を販売。キリンの赤ちゃんの命名権をオークションにかけて100万円で落札され、ニュースの一面を飾っている。さらに2021年と2023年にはクラウドファンディングを実施、目標総額2,800万円のところ総額約3,600万円の支援を達成した。
情報発信にも抜かりはない。広告宣伝費が大きく出せない分、SNSに伸びしろがあると感じていた代表は、SNS運用ルールを策定し、園の魅力を最も理解している現場スタッフ全員で投稿するようにした。その甲斐あってインスタグラムは5,000人超え、Xでは3.6万人のフォロワーを記録。YouTubeも2,000人以上のチャンネル登録者数を誇る(いずれも2024年10月時点)。「今までは一部の職員が、時間の空いているタイミングで運用できたらな、という程度でした。コロナ禍の逆風があったからこそ、今まで優先順位が低かったところに改善の手を入れることができたのかなとも思っています」。
2024年9月からは、ノスタルジックで独特な雰囲気を堪能してもらうべく「【レトロ×シュール】夜の遊園地」を開催し、新たな人気を博している宇都宮動物園。レジャー的な要素が多いものの、博物館としての機能を発揮すべく、企画を多数行う教育施設として「楽しく学ぶ」をテーマに地域密着の動物園を目指していると荒井代表は述べる。
「新明解国語辞典を引いてみると『啓蒙を兼ねた娯楽施設』と書かれています。でも動物園には、生物の調査研究をおこなう教育研究機関という大きな社会的役割が存在しますし、実際に我々は種の保存や生態調査などをおこなっています。来園される方々に楽しんでいただけるのはもちろんなんですが、研究施設という役割があることを社会に認知してほしいとずっと思っております」と語る荒井代表。今後は動物園に対する社会的な認識を変えていくことで、一企業としての成長を目指していくという。