なくてはならない存在へ

Future Leaders

 
     
 
神谷 孝志

ナカノ薬品株式会社

代表取締役社長

 

スズケングループ本体で長年にわたり本社勤務を経験。M&Aや新規事業開発など幅広い領域を担当後、2022年にナカノ薬品株式会社の代表取締役社長に就任。「現場を知りたい」という想いを胸に、栃木県内全域をカバーする医薬品卸の現場に立つ。

栃木の医療を支える柱

宇都宮市に本社を構えるナカノ薬品株式会社は、県内の病院、診療所、薬局に医薬品を届ける医薬品卸企業だ。単なる配送業ではない。医薬品という生命関連商品を扱う以上、温度管理、情報提供、適正使用の徹底、そして回収対応まで、高度な専門性が求められる。その中でナカノ薬品は、スズケングループの一員として、創業から約100年にわたり地域医療を支え続けてきた。

しかし2022年、神谷代表が社長に就任した当時、業界は変革期を迎えており、同社は経営環境の変化に対応する必要があった。本社勤務が長かった神谷代表にとって、卸事業の現場に立つのは初めて。150名近い社員の人生を背負う重圧の中、彼が選んだのは「フルオープン」と「現場主義」だった。

「フルオープン」こそ正義

神谷代表は、大学のラグビー部出身。株式会社スズケンに入社し、本社で長年にわたりM&Aや新規事業開発を担当してきた。「常に高い緊張感の中で業務を行ってきた」と振り返るほど、激務の日々。その緊張感の中で培われたのは、責任を持って自分で意思決定する力だった。「スズケンという会社は、たくさんのチャレンジをさせてくれた。失敗もたくさんした。でも、それでもやれている。スズケンはいい会社だと思います」

そんな神谷代表がナカノ薬品への出向を命じられたのは、同社が改革を求められる時期であった。業界全体がコロナ禍による混乱の中で、スズケンのトップからの指令は明確だった。「ナカノ薬品を改革してほしいと言われました。これまでの経験を必ず発揮するという想いでした。」

就任当初、神谷代表が直面したのは「情報共有の仕組みが十分でない」組織文化だった。課題が表面化しにくい・・そんな空気を感じ、停滞感を払拭する必要があると考えた。

「だから基本的にフルオープンで喋ることにしました。どこに利益があるのか、良いことも悪いことも共有していこうと決めたわけですね」神谷代表が最初に取り組んだのは、透明性の確保だった。業界特有の複雑な収益構造を、社員一人ひとりが理解できるように説明。どんな活動が利益につながるのかを、繰り返し伝えていった。朝礼や全体会議ではなく、もっとフランクに、目線を合わせて。

さらに神谷代表は、社長でありながら現場に同行し始めた。診療所やクリニックを訪れ、医師や薬剤師と直接対話する。「ナカノ薬品の社長が来たのは初めて、と驚かれることも少なくないです。できるだけ同行したくてね…机に座っているより、現場に行った方が楽しいんですよ(笑)」

改革には時間がかかったという神谷代表。しかし、透明性のある情報共有と、社長自らが現場に立つ姿勢が、徐々に組織に変化をもたらしていった。会社の基盤が強化され、組織のモチベーションが目に見えて上がってきた、と語るその表情は誇らしげだ。

「100周年はただのメモリアル」

神谷代表が今、最も力を入れているのが「変化を恐れない組織づくり」だ。医薬品業界は保守的で、参入障壁が高い分、競争に晒される度合いが低い。だからこそ、現状維持のままではいけないと彼は考える。

そのためにナカノ薬品が導入したのが、プロジェクトチーム制度だ。営業だけでなく、物流や販売事務のスタッフも含めた若手12名ほどで、2027年の創業100周年に向けたビジョンを策定中だ。イベントの企画だけでなく、会社の存在意義やパーパスを、若い世代が自ら考え、言葉にする試みである。「100周年は、あえて言うとただのメモリアルなんですよ。その先も企業として存在していくために、会社組織としてどんなメッセージを出すのかが求められる。特に今の若い方々からは、会社の規模にかかわらず『この会社に入ればどんなメリットがあるのか』気になっていらっしゃることが多い。だからこそ、会社全体で一緒に考えて、全体で発信していくことが必要だと感じています」

また、ナカノ薬品は地域医療への貢献にも力を入れている。2024年12月には、損保ジャパン栃木と共同で、日光市でドローンを使った医薬品配送の実証実験を実施。災害時の医薬品供給体制の構築を目指す取り組みは、栃木県内で大きな注目を集めた。「栃木県は災害が少ないと言われるが、近年では痛ましい被害も発生している。災害に備えた事前準備が必要です。」さらに、高齢化や医師不足が深刻化する栃木県で、DX化の支援など地域医療への活動も展開している。


全員経営で次の100年を

神谷代表が描く未来は、二つの軸で語られる。一つは「自立した組織」、もう一つは「栃木県になくてはならない存在」だ。「全員が経営者だという意識を持ってほしいんですね。自分たちで考えて、変えていく組織にしたい。そして100年近くもこの地にいるナカノ薬品として、もっと地域医療に貢献できることがあるはず。行政と一緒にやっていくこと、災害時の対応、医師不足への支援…栃木の医療を守るために、我々ができることをもっと増やしていきたいですね」

「栃木の医療にとって、なくてはならない存在になりたい。そして、働いているみんなが、振り返った時に『ナカノ薬品で働いて良かった』と思える組織を目指したい。その中でみんなが働いて良かったと思えれば、最高じゃないですか」

ナカノ薬品が次の100年に向けて歩み始めた道は、社員一人ひとりが主役となる、新しい物語の始まりだ。地域医療の最前線を支え続けるこの会社の挑戦は、栃木の未来そのものを明るく照らしている。