Future Leaders
栃木県宇都宮市出身。高校卒業後にキヤノン株式会社で2年間勤務。その後、上京して税理士法人事務所での実務経験を経て、さらにフィリピンやオーストラリアでの海外生活を通じて視野を広げた。2019年に帰国し、株式会社ウェルフィングを設立。現在は、株式会社グルホナビの社長も兼任している。
栃木県を拠点に主に障がい者向けの福祉サービスを提供しているウェルフィングは、グループホームや就労支援、相談支援、訪問看護など多岐にわたるサービスを展開。一人ひとりのニーズに寄り添いながら、地域社会の福祉向上に尽力している。松本社長は、地域密着の姿勢についてこう語る。
「宇都宮市に本社を置いているからこそ、このエリアに根ざした活動を続けたいと思っています。地域の福祉課題をしっかりと捉え、利用者さまが安心して暮らせる環境を提供することが私たちの使命です。福祉施設がまだまだ不足している現状もあり、地元の声に耳を傾けながら、着実に事業を進めていきたいと考えています。」
現在、ウェルフィングが運営するグループホームの部屋数は70室を超え、2025年にはさらに20〜30室の増加を予定している。地域トップクラスの規模へと成長を遂げるなか、新たな挑戦が続く。
21歳という若さで起業した松本社長。当初の目標は「起業すること」自体だった。しかし、自身の経験を活かした方がいいのではと考え、頭に浮かんだのが、小学校時代から抱えていた「吃音(きつおん)」だった。吃音とは、スムーズに発話ができない発達障害の一種。松本社長は当時をこう振り返る。
「授業中に『松本さん、ここを読んでください』と言われても、頭では理解しているのに言葉が出ませんでした。当時、吃音への理解は乏しく、孤独を感じることも多々ありました。しかし、『このままでは社会に出られない』と危機感を生み、中学進学を機に、新しい環境でゼロからスタートしようと考えました。内向的だった性格を明るく変えて、まずは自信をつけることから始めました。『流暢に話せる人』に成りきる努力を続けるなかで、はじめはまるで自分ではない感覚でしたが、やがてその姿が自然と自分に馴染み、最終的に自分らしく過ごせるようになったのです。」
努力を重ねた結果、吃音を克服するだけでなく、障がい者支援への関心が高まる。調査を進めるなかで、栃木県の福祉計画に目を留め、不足している「グループホーム」に事業の可能性を見出す。「生きづらさを抱える人の役に立ちたい」という思いが確信に変わり、この分野での起業を決めた。
設立当初、松本社長はコロナ禍という未曾有の状況に直面した。人材不足や資金繰りなど、数々の困難が待ち受けるなか、特に印象に残る出来事があったという。
「立ち上げ当初に採用したサービス管理責任者が、良くしてくださっていた別の事業者に引き抜かれてしまいました。その職員にも事業者にも連絡がつかず、『寝返られたんだな』と痛感しました。その時は本当にショックでした。」
しかし、松本社長は楽観的な性格を活かし、この出来事を成長の糧とした。「事業を進める中では、こういった困難もあるものだ」と前向きに捉え、会社の体制強化に努めることで、直近2年でグループホームを6室から70室へと拡大することに成功した。
困難な状況を乗り越えながら、松本社長は「人」に関わる福祉事業の難しさと向き合い続けている。そのなかで課題を成長の糧に変える姿勢が、事業を前進させる大きな推進力となっている。
事業は5年間で大きく成長し、障害福祉を中心にトータルサポートを実現した。松本社長の今後の目標は、グループホームのさらなる拡大や訪問看護ステーションの拠点増加に加え、社内DX化や業務の標準化、そして外国人雇用の推進だという。
「私のルーツでもあるフィリピンからの人材派遣を実現したいと考えています。ただ、日本の福祉現場では柔軟な日本語や文化の理解が重要です。障がいを持つ方々は、言葉のニュアンスひとつで大きな影響を受けることがあります。外国人職員にも、福祉の知識だけでなく、文化的な理解を深めてもらうことが不可欠です。」
さらに、業界特化型の外国人雇用教育機関の設立も視野に入れている。言語・文化・福祉の三要素を兼ね備えた人材を育成することで、福祉業界全体への貢献を目指している。松本社長は「福祉の力で地元に貢献し続けるとともに、柔軟なアイデアで業界全体の成長にも寄与していきたいです。」と意気込んだ。
松本社長が描く新時代の福祉のかたちは、地元に根ざしつつ、福祉業界全体をけん引する存在として、これからも挑戦を続けるに違いない。