Future Leaders
1980年栃木県足利市生まれ。成城大学卒業後、2004年株式会社ラ・コミュニテ(現・株式会社足利フラワーリゾート)入社。2010年株式会社足利フラワーリゾート取締役就任。2017年、同社代表取締役に就任、現在に至る。日本商工会議所観光・インバウンド専門委員会委員、栃木県地域連携DMOとちぎ観光地づくり委員会委員長、足利商工会議所常議員、足利商工会議地域活動委員会委員長。
「あしかがフラワーパーク」は、年間来場者数160万人を超える日本最大級の植物園として知られ、特に藤の花の名所として広く認知されている。毎年春に開催される「ふじのはな物語」では、「600畳敷の大藤棚3面」や「80m続く白藤のトンネル」が特徴的で、国内外から多くの観光客を集めている。そして特筆すべきは広大なイルミネーションだろう。500万球以上のLEDを使用した壮大な景色は20年以上の歴史を持っており、2022年3月には全国ランキング第1位にて日本三大イルミネーションに選出、インターナショナルイルミネーションアワードにおいても2024年現在9年連続で全国1位を受賞するなど、その壮大な迫力は折り紙付きだ。
一般的に、植物園は繁忙期を過ぎると一年のほとんどが閑散期に入ってしまうことが多い。フワラーパークでも、かつては藤の花のシーズンに1年分の売上を稼ぎ、他の季節は何とか食いつなぐような、経営的に不安定な時代が長く続いていたという。フラワーパークの三代目代表を務める早川代表は、当時をこのように振り返る。
「私が入社したタイミングも、経営的には非常に厳しい状況でした。月末になると、お取引先への支払いに苦慮したことも正直ありました。ギリギリで手形を発行してもらうなど、何度もご迷惑をおかけした時期がありましたね。」
このような厳しい経営状況を打破するためには、藤のシーズン以外での集客が不可欠であった。フラワーパークの存続に向けて、24年前から開始したイルミネーションは次第に注目を集め、これにより、藤の花とイルミネーションを融合させた「花と光のテーマパーク」が誕生し、パークの成長を支える大きな柱となった。
2019年、台風19号がフラワーパークを直撃し、パーク全域が冠水した。最高水位は2メートルを越え、その年のイルミネーション準備を進めていたタイミングでの被災となったため、電球やシステムを含めて億単位の損害が発生した。しかし、当時早川代表が最も懸念していたのは、金銭的な被害以上に、世間からのイメージだった。
「周囲からは、2ヶ月くらいは再開は難しいだろうと言われました。もちろん、順当に復旧すればそのくらいかかったと思います。でも、世の中の想像通りに時間をかけてしまったら、同情は生まれるかもしれないけど、それ以上にネガティブなイメージがついてしまうんじゃないかと考えたんです。人々の想像を、いい意味で裏切らなければならないと思いました。」
早川代表は、復旧に向けたボランティアを受け入れず、自分たちだけで作業を進めることを決断。目標としたのは「1週間」。この無謀とも思える挑戦に、当初は社員も引いていたが、作業を進める中で全員が同じ方向を向き始めた。早川代表は当時を振り返り、「このフラワーパークを復旧させるために、全員が同じ目標に向かって取り組んだ時間は、ビジネス的な目標以上に意味があったと思います」と語る。結果的に、わずか8日間で仮オープンまでこぎつけた。難しいとされる目標を達成したことが、社員一人ひとりの自信となり、現在のフラワーパークの強さにも繋がっているのだろう。
早川代表は今後の地域社会において、幼少期からの「地域教育」が重要だと語る。地方の子どもたちは大都市に憧れ、進学や就職を機に上京するケースが多い中で、地域教育の目的は地域に対する「愛情」や「誇り」を育むことだと強調している。
「小さい頃から、自分が生まれ育った地域に誇りを持てるような教育をしていかなくてはならないと思っています。今の子どもたちは素直で、真摯に物事を受け止めてくれます。その素直さを活かして、地域の魅力を伝えていけば、地域教育は子どもたちの人間形成にも大きな影響を与えると思います。自分が生まれたまちに自信を持てるような社会になれば、この街で思いを持って働きたいという意志にもつながると思うんですよね。」
このような教育を通して地域の魅力や文化を知り、自分がどのように歩んでいきたいかを考え、仕事を選ぶきっかけを与えられる。優れた人材を育てるためには、教育カリキュラムや労働環境を充実させること以上に、自分が生まれたまちを誇りに思えるような人材を育成することが、最終的には地域の産業を前向きにし、地域全体の活性化につながるのだろう。早川代表も「私たち企業も地域にもっと関わり、地域の子どもたちに対して自分たちの活動を知ってもらう機会を増やしていきたいと強く感じています。」と力強く語った。
今後の地方観光業において、地域社会やお客様とのつながりを強化していくことが重要になってくるであろう。そのビジョンを実現するために、まずは現在ある環境をさらに深掘り、価値を最大化していくことが第一歩である。早川代表も「今あるこの環境を突き詰めていきたい」と語った。
「現在お客様に認知していただいているのは、藤とイルミネーションのシーズンが中心となっているんですよね。私たちとしては、これにとどまらず、年間を通じて花と光をテーマにした魅力的なパークを作り上げていきたいと考えています。お客様が魅力と感じていただけるような園作りや商品企画開発などのチャレンジは、まだまだ道半ばです。だからこそ、新しい事業をやるというよりは、今あるこのフラワーパークの更なる価値化に取り組まなければならないと考えています。」
被災やコロナウイルスの逆境を乗り越えた早川代表は、1つの事業に依存することのリスクを理解している。藤の花に続く事業として注力してきたイルミネーションも軌道に乗り、確かな成果を上げている。今後は、インバウンド需要も視野に入れ、日本全国はもちろん、世界中の人々が訪れる、名実ともに魅力的な花と光のテーマパークを目指していく。